第10話 夢の中で

朦朧とする意識の中、私は夢を見た。

嫌な記憶だ。ベッドで目が覚めた時……

父は捕まり、母は私を捨てて逃げたと聞かされる。


「どうして。どこにいるの母さん。一人にしないでっ、置いて行かないでっ」

何度も泣いた。わめき続けた。


でもそんな気持ちは、記憶が薄らいでいくにつれて、忘れていった。

いつしか私は空っぽになった。

誰からも必要とされていない。ここからいなくなってしまいたい。



「♪〜」



昼間聞いた歌が聞こえる。母の子守唄だろうか。母の腕に抱かれてウトウトしている私。父はお茶を片手にこちらを覗きこむ。こんなに父が笑うんだ。


「生きて、生きていて欲しいの──」





はっと、意識が戻る。

目は開かないが、現実に戻ってきた気がした。

首元にのせられた氷水が冷たい。

フリートさんが看病してくれているのだろうか。氷が冷たくて、体が少し楽になった。

でも、息が苦しい。

細いストロー、一本で呼吸しているようだ。


このままいけば、楽になれる。楽にいける。誰かを守って逝ったことになるんだろうか。

父さん、母さん。


「生きて……生きて……欲しいの」



そう──



夢の中だけの存在でもいい。


幻でもいい。


信じようてみてもいいだろうか。


その言葉を。温かな笑顔を。



今はそれだけで生きようと思える。


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