第12話 月夜の告白

目を覚ますと夜になっていた。窓から月の光が差し込んでくる。

月の光に手をかざす。

「生きてる」


体を起こすセイ。

ベッドの縁にはミーナさんが倒れかかって寝ていた。そっと毛布をミーナさんにかけた。起こさないように自分の部屋を出る。


稽古場を目指して足が進む。

そこに着くと、誰もいない静かな稽古場は全く別の世界に思えた。

月明かりに照らし出された稽古場は、演劇会場のステージのようだ。


思い出したかのように、今日聞いた歌を口ずさむ。

「♪〜」

子守唄だった。

母親を思い出す。あったかくて、柔らかな笑顔の優しい母。


忘れていたんだろうか。母のこと……

涙が溢れてくる。胸が熱く苦しくなってきた。


おもむろに近くにあった木刀を一心不乱に振るい始める。

この気持ちを振り払うためか。胸に刻むためか。



「真夜中に稽古か。もう動いていいのか」


突然暗闇から声がした。振り向くとそこにはフリートが立っていた。


「あっ、はい、動けます」


言葉に詰まってしまう。フリートさんの顔は月明かりに照らされている。

怒ってる? 悲しげにも見えるけど。フリートさんが目の前まで近づいてきた。


「あのっ! 今日はごめんなさい。

私のせいでご迷惑をおかけしまし──」


フリートがセイの頭に手を置く。


「た──」


フリートがセイの髪をくしゃくしゃと撫でる。


「はー。なんでおまえはそればっかりなんだ。

人のことばかり考えていつも自分を蔑ろにする。

今日だって俺がどんだけ心配したか」


冷たい。

フリートさんの体が、手が冷えている。



「セイが生きてて──良かった──」


フリートの一言にセイの心が共鳴する。

母さん……





「フリートさん……

今日私、自分の母親のこと思い出したんです。

少しだけ……はっきりと。


母さんの温もりや愛情や子守歌、生きて欲しいって思いも。


ここに来るまで、私は誰にも必要とされてないって、誰とも繋がってない思ってたんです。

でもこのパトリアでの生活で、こんな形の家族があってもいいなって。ご飯食べて、稽古して、笑って、喧嘩して、助け合って。

草爺のこともみんなで手伝ってくれて。


私も救われたんです。

血の繋がりがなくても繋がってるんだって、実感できたんです。


私は、

父と母のこと、本当に知りたいって思ったんです。

フリートさんと稽古場してると、父の姿を思い出すんです。

剣を振るたび父との記憶に触れられるんです。


でも、今まで……母のことを思い出すことはありませんでした。

記憶に鍵がかかっているみたいに。


それが今日、門の方から聞こえた歌声で思い出せたんです!

だから、あの、もっと知りたいんです!

いつか、モリテとして外に出て。今日聞いた歌声の人に会ってみたいんです」

セイは心に秘めていた思いを吐き出すように語っている。


「そうか」


そうなのか。来てしまったのか。おまえが旅立つ時が。


フリートは嬉しそうに話すセイの話を静かに聞いていた。

新たな決意を秘めたセイを見て、少し苦しく思った。

セイの歩んでいく道を思いながら、フリートは夜空を見上げた。

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