第11話 思いを胸に

「生き、る」



手探りで近くにいるはずのフリートを探すセイ。セイがフリートの袖を掴み、ペンを持ち何かを書く仕草をして見せる。

紙とペン。持ってきて欲しい。

すぐにフリートはペンを持ってセイに渡した。紙も手の下にセットしてくれている。


体、起こして、息……


これ以上は書けなかった。

とにかく息をいっぱいに吸いたかった。フリートさんはわかってくれたようだ。

私の体を起こして、後ろに回った。両肩を掴み、少し後ろに引いてくれた。アゴに手を添えて顔を上向きにする。

少し手荒いが、肺に入る空気が少し増えた気がした。


少し口角を上げて微笑んだ。ありがとうと伝えたかった。


フリートさんの指先から少し力が抜けた気がした。どうしたんだろう。



少し間が空いてから、口から生温かい空気が大量に流れてきた。


唇から熱を感じる。


誰かの口から私の口に直接息を吹き込んでくれている。


何度も、何度も。


身体中にあった縛られていたような感覚がなくなっていく。霧が晴れるように意識がはっきりしてきた。


騒々しい声が、聞こえる。何をさわいでいるんだろう。


ゆっくりと目を開けた。


視界が誰かの顔で半分遮られている。

あっ見えるようになった。

ミーナさんと目があう。目に涙を溜めている。



グッと抱きしめられた。



「ん、ミ、ナ、さん」



「おっ、戻ったか、セイ……」

気のせいかフリートさんの声がうわずって聞こえる。

後ろで支えてもらっているので顔を確認できない。


「いいのよ今は、しゃべらないで」

そう言ってミーナさんは息を吹き込み続ける。



時間が経つうち、自分がどんな状態かか把握できてきた。

なんだか恥ずかしくなってきた。

嬉しいような苦しいような、どこかむず痒い感覚だ。


目を閉じよう。



突然ドアがバンっと開く。ヴァンが薬を持ってきたのだ。


「セイ、大丈夫か! って、なんだこの状況はっ」


「いいから薬!」


フリートとミーナが声を揃える。



お湯で溶かした薬が口元に運ばれる。湯呑みの縁がセイの唇に触れた。


意識があって良かった。

ゆっくり薬を飲み込んでいく。

とてつもなく苦くて渋い。


少し経って元の呼吸ができるようになった。腹痛や吐き気もおさまった。熱も引いてきた気がする。



そっと強い眠気に襲われセイはそのまま寝てしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る