第8話 解毒が使えない回復師
呼ばれた方へ走るセイ。辺りが物々しい。
人混みをかき分け進む……
輪の中にいたのは、床に座ってへたり込んだ老人。
草爺だ。
よく近くの林や森で山菜やキノコをとってはみんなに食べさせてくれる。
「まさか」
テーブルの上の食膳を見た。身が凍るような衝撃だった。
毒草だ。
すでにほとんどは食べてしまっている。
「なあ、セイ、なんとかならねえか」
近くにいる男が言った。
事態の深刻さに気づきつつも、セイは大きく深呼吸をした。
「これは……毒草なんです」
周りを慌てさせないように静かに説明し始めた。
「これを食べると嘔吐や高熱を発症します。多く食べると、手足が痺れて徐々に呼吸ができなくなります。
──解毒するしかないです──」
そう解毒。私にはできない回復師の技。
でも、助けたい。
「やるだけやってみます。でも完全には解毒しきれません。だからこの毒草にそっくりな葉っぱで縁に白い斑点のある薬草を取って来て欲しいんです。
なんとか……時間を稼ぎます」
俯くセイ。
後ろからバシッっとセイの背中を叩く男。
振り返るとそこにはヴァンが。
「任せろ。どれくらい必要だ」
「えっと。5まい、いや一応10枚は欲しいです」
「わかった。草爺の狩場は知っている。足の速いヤツ俺についてこい」
ヴァンの一声で若い男や屈強な男性人が集った。雰囲気が変わる。命がかかっているのだ。
風のようにヴァンたちは出て行った。
私も命をかけないと。
フリートさんが何かできることはあるかと聞いて来た。
タオルや布団や氷水を頼んだ。
草爺の状態が思わしくない。
体が弱い草爺、すでに手足に麻痺が出て震えている。
ヴァンさんたちは必ず薬草を見つけて帰ってくる。
私も草爺の狩場を知っている。でも距離がある。往復1時間、草爺の体力はもって数十分。この状態じゃ、草爺の体力はもたない。
もうやるしかない。迷ってなんていられない。
父と母のことが好きだった、尊敬してた。今もそうだ。
捕まっていても、見捨てられても。
でも、あの日から。
特に母との記憶は深く霧がかかったように霞んでいった。
それでも薬屋の母が教えた知識が私の中に生きてる。父の剣術が私の体で生きている。僅かでも母と同じ回復師の技が使える。
父と母のように、誰かを守りたい。
「やってやる」
体中の力を込めて草爺の腹に手をかざす。
草爺の呼吸が苦しそうだ。もっと集中しないと。
みんなが見守ってくれている。視線の暑さがこっちにも伝わってくる。
うっ、お腹に痛みを感じる。
「順調だ。いける」
吐き気を感じる。
「いける」
指先が震えそうだ。
「できてる」
──ここまでだ──
かざしていた手を下ろした。今度はセイが床へたり込む。
「大丈夫か。セイっ!」
フリートがセイを抱き起こす。
「く、爺は、」
草爺の呼吸が元に戻っている。震えも止まったようだ。
だが腹痛は治っていないだろう。草爺は体を丸めたままだ。
セイは草爺の額をツンっと指でついた。草爺の苦悶の表情が和らぐ。そのまま眠ったようだ。
「少しだけ時間を稼げると思います。ヴァンさん達が戻ったら、薬草を5枚すりつぶしてお湯と混ぜて飲ませてください。そうすれば痛みが落ち着くと思います」
額から汗がながれてくる。早くこの場を離れたい。
「あと、残った薬草は私の所に持ってきて欲しいです。
解毒の力を完全にしたいので……届けて欲しいです」
──嘘だ──
「すみません、私バテちゃったので、戻りますね。
あとは草爺のことお願いします」
私は食堂を出た。仲間たちの緊張の糸がほぐれたようだ。みんなせきをきったように話している。私にも話しかけてくれてるのだろうか。
ありがとうと聞こえる。手を振りたいが、自由が効かない。
手足が震えてきている。なんとか自分の部屋まで。
「セイっ!」
フリートの声が廊下に響いた。
くず折れるセイ、咄嗟に腕をまわし支えられる。
「部屋まで連れて行くぞ、ちゃんと説明しろ」
意識が朦朧としていて、答えられない。
フリートはセイを抱き抱え、寮の部屋へと向かって行った。
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