第5話 モリテ探し

ある朝、応接間に人が来ていた。会長が相手をしている。ノックして部屋へ入る。


「フリートです。失礼します」


中にいたのは会長と客の男が1人。


「モリテを、探している。養子息子の護衛してほしい。年は19。

できるだけ歳の近いやつを──」


心臓が一瞬止まったように思った。


「見て周りますか」と会長が男に聞く。


「ああ、そうしたい」


「フリート、案内役頼めるか」


「──分かりました──

その前にヴァンを呼んでもいいでしょうか。頼んでおきたいことがあります」


「構わないが」


「では後ほど敷地内をご案内します」

一旦退室するフリート。






「なんだよ、フリート。いきなり呼び出しやがって。

って、おい聞いてんのかよ!」


「ヴァン。頼みたいことがある。お前にしか頼めない───」




「───いいのかよ、そんなことして。セイは、」


「雇い主はルーファス家だ」

フリートは低く重い口調で言い放つ。


「ルーファス家って」

何かと黒い噂のある家だ。今の当主になってから急に力をつけ出し、怪しげな動きが多い。最近、養子を取ったとも聞いた。


「そうだ。お前ならわかるだろ。あんなとこのモリテになったら駒にされて死ぬだけだ。それに悪行の片棒を担がせられることだって。

だから今日はセイを稽古場に出さないでくれ。

セイに伝えてほしい。給仕の手伝いを頼むと。今日一日は、頼む……」


「ハッ、隊長ともあろうお方が女1人にここまで入れ込むとは」


「そ、そんなんじゃない。セイは」


「わかってるよ、お前にとって愛弟子なんだろ。

守ってやりたいのはわかる。あんたの指示にも従う。だが、

セイを縛るんじゃねぇ。いつかは手放す時が来る。それがモリテなんだからな」

フリートの肩を軽く叩き出ていくヴァン。


「あぁ……」


扉がバタンと閉まる。



「わかってない。

お前にはわからないだろうな、俺はセイを、


実の娘のように思っているなんて──」


セイが来て半年経った。

セイはしゃべるようになったし、仲間もできた。笑うようにもなった。

だが、時折どこか空虚な、寂しげな顔をする時がある。

ふっとどこかへ消えてしまいそうな、そんな危うさがあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る