辛党も甘党も、人間関係の深みを見たいならば是非

 副題の「記憶喪失の僕は、猫になってクール系タラシの女子大生に拾われる」だけを見れば、おバカなラブコメかとも思わされるのですが、確かに軽い文体や恋愛を臭わせる描写もあるのですが、全体的に流れるトーンは程好い緊張感を持ったシリアスよりです。

 人がネコに変わる、ある時刻を境目に人に戻るというファンタジー要素もありますが、それらを面白おかしく書いたものでないのは、私だけが受ける印象ではないはずです。

 人間関係、それにまつわるドラマが主であり、ファンタジーというジャンルから想像させられる派手な描写も形を潜めています。

 だからこそ、人の描写に強く惹かれます。

 まず悪人がいない。

 怪しいと感じる人はちらほらと見えますが、純粋な悪役は存在せず、いうなれば敵役が存在するのみで、それても主人公の昴とハチに関わる重要な存在として、悪意や敵意とは無縁であるように感じました。

 ハチの一人称で進む物語は、ハチの未熟さ、青臭さを感じる点が多々あり、だからこそハチが好ましい青年であると感じさせられました。

 人間関係をきちんと描写した、骨太の人間ドラマ…私はそう読めました。他の方にも読んで、感想を残していって欲しいと思う物語です。

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