これは永遠に続く友情の物語
- ★★★ Excellent!!!
友達3人組の取り止めのない日常から物語は始まる。
ロクでもない連中のどーでもいいような思い出話。
それは回を追うごとにあっちへフラフラ、こっちへフラフラと蛇行する。
青春時代についた消えないアザのようなズキズキする思い出や、今は遠くなってしまった友人の思い出。
一本、筋の通ったストーリーが展開されるわけじゃないので、下手をすると「面白くねーよ」ってなっちゃう可能性もある作品構成。
……なのに、著者の感性が描写がヤベー良いから、ビシバシ心に響いてくる。
本当に毎回のように槍みたいに鋭い切先の感性の言葉がビュンビュン飛んでくるから、心はもう心は穴だらけ。虜になっちゃうよ。
人間観察の力、心の動きの表現力。そういうのが秀逸で、読みながらずっと唸ってしまう。読んでいると忘れかけていた自分の思い出が蘇ってくる。それがすごい。
人の脳って忘れることはあまりなくて、思い出せなくなることが多いらしいけど、この作品を読んでると、思い出せなくなってた過去の出来事が深い記憶の水底から釣り上げられちゃう感じがある。
思い出せなかっただけなんだな。って。心に大切にしまいすぎて思い出せないだけだったんだな。って。
それを改めて実感する。
誰の心にもある小さな後悔とか宙ぶらりんなまま終わってしまった大したことない疑問とか、それらを鮮烈に思い出させられる。
だって、物語の登場人物とも著者とも自分は育ってきた境遇とか環境とか全然違うはずなのに、それなのに、めちゃくちゃ共感して親近感が湧いちゃうって、やべーよ!!
「俺の為に書いたんじゃねーのこれ!?」
ってなった。
そして、なる人が続出すると思う。するはずだ。多分。きっと。
紆余曲折しながら、それでも物語は進んでいく。いや、進んでるのか?
行ったり来たり思い出話が蛇行していくばかりでこれは物語と呼べるのか?
と疑問に思ってしまうかもしれないが、大丈夫。
きちんとちゃんとエモい物語。
好きすぎてネタバレになるのを気にせず書いちゃうけど、特にバレー部の一連の回はめちゃくちゃエモいのよ。色のない世界が次第に輝いていって、見事に煌めいて、でも何かのきっかけで急激に色褪せていく。そういう様をすげ〜良い感じの描写で書ききってるじゃないの。良い!良すぎ!
で、ラスト。主人公の外で勝手に世界は色を変えて、取り残されつつも主人公の世界も変わっていく。唐突にも思えるラストは深い。
終わってしまった三人の世界を夢の中で思い出している。
その夢の中では、三人の世界はあの頃のまま存在している。
それが激烈センチでエモいし真理じゃん!
本文より引用(ネタバレだけど)
「私ね、ずっと会わないでいるのって、相手が死んじゃったのと同じだなって思ってたの」
「でも、会ってなくても死んじゃったら、その人って死んじゃうんだね」
そう。逆を言えば、会わなくなってもどこかで生きてる限り、思い出は残って、それは「頭の中に人がいるみたい」ってことに繋がるんだね。
三人の友情は終わって、新しい日常が始まっていて、物語は唐突に終わるように感じるかもしれないけど、それでいいのだ。
これは全て「思い出の話」だから。
皆の心にもある普遍的な思い出の話。
誰かの何気ない一言、くだらない喧嘩、解決できないことや、未練の残ること、そんなのが冷凍保存されてる頭の中。
それが一瞬、解凍される。
ふっとあの頃の温度で蘇る。あの頃の鮮度で蘇る。
季節外れの風の匂いみたいに、切なく少しチクっとしながらも少し胸が温まる。
これはそんな思い出の話なのだ。
だから、たとえ現実が色を変え、既に失われた友情だったとしても、
三人の奇妙な友情が世界から失われたわけじゃないのだ。
主人公の心の奥に真空パックで保存されている。
記憶の中で三人の友情は永遠なのだ。存在しているのだ。
目を閉じればバカな三人がバカして笑ってる。
あの頃のまま。物語が終わっても、現実が違っても。
あの友情は永遠だ。死なない限り消えない。
この物語は「永遠に続く友情の物語」なのだから!