一貫して主人公加賀の目を通して、彼女のいる世界が描かれています。
それは深夜のコンビニで探す駄菓子であり、小学校のプールに侵入して泳ぐことであったり、バレー部の練習で木の棒をひたすら投げさせられるとか、そういう、何処にでもあるようで、でも絶対に彼女の中にしかないことです。
まばゆいようでいて、退廃的でもある。今思い出すと過去は輝いていたようにも感じ、しかしそれでいてどうでもいいことばかりだったような、そんな過去の思い出を読む人の中から引っ張り出してくれる文章の要は、静かで淡々とした、ある種の諦めさえ感じさせるような主人公の語りにあると思います。
きっと読む人はそれぞれに、加賀の心の動きから自分の中の過去を思い出すでしょう。
すごく不思議で、でもとても心に響くお話でした。ありがとうございました。
答えの出にくいことをぐるぐると考えさせられた。
大人になるとはどういうことなのか。社会とは? 自分らしさとは? そういったことを。
この物語の主人公は善良な市民のありきたりな常識ではなく、独特の考え方を持っている。それなのにすごく共感できるし、うなずける。
それはいったいどういうところから来るんだろうか。自分に置き換えたり、社会に置き換えたりして、何かを読み解きたくなってしまう。
この物語を生きているこの主人公ならではの感情はとてもユニークで、よくこの感情の種類と出所を把握して文字としてつづれたものだと主人公に感心し、そしてこれこそ小説だよなあと思ってしまったのでした。
主人公の悩み多き若葉の季節に、それぞれの輝き方で彩りを与えてくれた仲間たちと先輩に対する、溢れだしそうな深い愛情と愛惜の感情を少しドライなタッチの文章と練り上げた構成でグッと包み込んだという印象の作品です。
サブタイトルのパラドックス、冒頭と終章等々、主人公の様々な心象のコントラストが印象的な、作者自身にしか描けない高解像度で紡がれた、男女云々読者を選ばない有効射程が広い青春小説と言えると思います。
BGMはnickelbackの「photograph」では、チャドの野太い声が女の子達の青春小説にはさすがにちょっとあれな感じでした。
Blindmelonの「no rain」は色々座りがいい感じでした。
マイナーですね。すみません。
この点は当然私個人の使用感ですので個人差は甚だ大きいと思います。それぞれしっくりくるBGMを選んでみたらいかがでしょうか。
コンテスト参加作品のようです。多くの方に読んでいただければと思います。
私のようなおっさんにもインパクトがある秀作でした。
過ぎ去った日々の回顧録風に進む小説。中学や高校のころの思い出をこんなに鮮明に思い出せるだろうかと自分に尋ねてみると、自信がない。そもそも運動部がだるく、たった一、二年生まれたタイミングが早かっただけの人間にでかい顔をされるのが嫌だったので、ひたすら体育会系的なものから逃げ続けて青春らしきものを送った記憶がない。
けれども読めば似たような感覚が想起されて、あのころ、同じ国で、同じ性別の身体に生まれて、近いことを考えたり感じたり感じなかったりしていた別の人格の別の人生があると考えるとどうにも不思議で懐かしい気持ちになる。続きが楽しみです。