あし

作者 阿瀬みち

199

68人が評価しました

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★★★ Excellent!!!

この作品のキモとなるのは、嫌見のない空気感だと思う。
女装が物語の仕掛けになっていると、性自認という分かりやすいテーマあるいは性欲という使いやすい道具を使ってしまいそうになるものだけど、
阿瀬みちさんはそれをサッと流して日常生活や人生で、誰しも陥りやすい苦しみを描く。成行き上の相方あるいはパートナーとの関係性も、下手に物語に落としこまずに絶妙にリアルだ。
ほっとするような良い塩梅とでも言うべき空気感で、それでいて本人達にとって深刻な事象が語られる。それが心を揺さぶられるのだと思う。

★★★ Excellent!!!

漫画家になることを諦め地方に引っ越すことを決めた主人公が、ふとした思いつきで女装をしはじめるお話。
自分のやりたいこと、なりたい者になれない限り何者にもなれない。そういう夢めいたものを抱く人間誰もが感じているであろう虚しさや寂しさが読み進めていくうちに体にじわじわ浸透してきます。
何者にもなれなかった主人公が、名前を変え性別も変え、誰でもなく、どこにもいない人間になろうとする心の動きがとても切なかったです。
新しい人間を作るというところが、創作する人間の業を感じられてとても好きです。
志を持つ人みんなに響くお話だと思います!

★★★ Excellent!!!

読み始めてすぐに『おやじ男優Z』が頭をよぎりました。ペーソスあふれる女装おっさん物語。不思議な友情(?)もみていてやきもきします。もうちょっとなんとかしろよ、お前ら、と言いたくなります。それくらいに妙にリアルな描写に引き込まれました。ふつうにテレビドラマで観たらはまりそう。
本物川小説大賞深い!

★★★ Excellent!!!

 なりたい自分になれなくても、その後も人生は続いていくし、どうでもいいと思っていたようなこと、「本当の自分」なんてものとまるで関係のないことで生計を立てられてしまったりすることもある。
 じゃあ主人公はすごい不幸かっていうと、そうでもないんですよね。
 なんだかんだ、状況を受け入れて、社会や生まれ育ちを恨むでもなく、ソコソコやってるんですよね。
 メインの2人がくっついちゃうとか、最終的に殺し合うとか、そういうドラマチックなオチじゃなく、淡々と終わるのが「こういう人生もありえるのだなぁ」という読後感になってて、よいと思いました。

★★★ Excellent!!!

ネットの自分は大きくなりがちだ。隠せる部分が多い分、なりたい自分になれるような錯覚を覚える。リアルの自分でいる必要のない環境は別世界に感じる。

そうして作り上げたキャラが誰かに受けてしまうと、歯止めがきかなくなる。フォロワー、リツイート、いいね、PVなど如実に数字として現れてしまう残酷な一面もあるから尚更だ。

続けなければ数字が稼げず、誰かとの縁も切れてしまう。けれど、リアルとネットの自分の間に齟齬が生まれると、本当の自分ってなんだろうと悩み、歪む。

私にとってこの物語はなんだろう。
人を人たらしめるものって意識と記憶だと思う。
どれだけ自分を大きく見せようとしても、結局自分は自分以外の何者になれない。

でもそうやって自分は主人公とは違う、こうはならないと考えてしまうあたり、ちんこ画像を送る人間の側にいるのだろうなとも思った。自分にとってはこの物語は遅効性のある毒薬かもしれない。

★★★ Excellent!!!

人というなまものの質をよく知っておられる作者様と思います。

偶然にも見つけてしまった、自分に備わる才能のようなものを、開花させる方向に傾いてしまうのは、いのちの重力のようなもの。
お金になるとか、インフルエンサーになるとかは、気持ちいいけど副次的なものなのだ。

具体的な描写から、いのちの重力の向きが見えてくる。快作でした。

★★★ Excellent!!!

またしても会話文がリアルですよ、阿瀬さん。

本当はそんなことで有名になりたかったのでも
オカネを得たかったのでもない、
でもそれが出来ているわけやし、
実際『上手くいっている』

忸怩たる、
という重油のような感情まみれの主人公に非常に共感しました

つうかね、わたし今日超忙しいんですが、今、全部読んでしまったのよ!

おそろしい吸引力!

素晴らしい

★★★ Excellent!!!

未知なる世界への入り口は、元カノが残したストッキングでした。

女装というセンシティヴなメインテーマを主軸に置きながらも、
複雑に絡み合う現代の承認欲求のありのままを描いた意欲作です。

自分が成りたいものと、人から求められる姿とのギャップに苦しみ喘ぐ。
主人公の生々しい苦悩には、他人事とは思えないほどの共感を覚えました。
創作界隈に生きる方には、尚のこと強く訴えかけるメッセージ性があると思います。

けれど。

生きとし生けるすべての人たちが、
それぞれに自分自身の人生を飾るクリエイターである。

私は終盤の展開において、そのように読み解きました。
私たちは何を創り出すでもなく、それでいて常に何かを創り出しているのでは、と。

私たちの毎日は有象無象でありながら、同時に唯一無二である。
たとえ錯覚だとしても、そのような救いを感じられる一瞬を見た気が致します。