消えかけた恋の炎に、別の木をくべた。

望む未来はかぎりなく遠く、けれども時間は早く過ぎていく。未だに空は暗く、空気は冷たく、自分がどこいるのかも分からない。
わかるのは、小さな火の下にある雪の影だけ。
そう考えた時、人はどんな寂しさに苛まれるのだろう。

誰かを欲するのは、肌寒くて寂しい時、ちょうど温めてくれる人が目の前にいるからだろうか。
火に背を向けてそこへ向かって、肌の温度が馴染みきったとき、今度は見えなくなった火が恋しくなったりするのだろうか。

消えかけた恋の炎に、別の木をくべる。
ただ、黒い後悔の煙だけが肺を満たし、黒い空にのぼっていく。
それでも思い出されるのは、甘くて幸福な時間だけ。

雪は溶けて消えていく。
春は何よりもあたたかく、ガラスを砕いたような光を伴ってやって来る。

それでも、雪闇の中で灯る火は、暖めなくとも美しかった。
多分思い出す限り、そうあり続けるのだろう。

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