雪に咲む

羽間慧

第1話 初めての彼女

「付き合えるなら今年の十月かな。大人しい子じゃなくて明るい子」


 馴染みの占い師に言われた運命が、真実となる。

 大学四年生の十月。私は女友達と飲んだ後に告白された。


「初めて会ったときから好きだった。卒業まで待とうと思ったけど、この想いを隠せない」


 雪乃は両手を握りしめていた。

 以前、雪乃は告げた。恋愛対象は女の子も含むと。そのカミングアウトを私は受け止めた。


 ――教えてくれてありがとう。それだけ大事なだと思ってくれたんでしょう?


 自分の言葉が胸に刺さる。雪乃は私の気持ちを探っていたのだ。恋愛対象として見てくれるかどうか。


 今も、雪乃は不安そうにしていた。

 私は返事を必死に考える。


 生まれて初めての告白。それも、男の子ではなく女の子に。

 だけど嫌じゃない。拒絶反応は起きなかった。


 振ってから疎遠になるより、付き合った方が丸く収まると思った訳ではない。雪乃と一緒にいる時間は落ち着く。それは私が恋人に求める唯一の条件だった。


「私でよければ」


 爪先立ちをして、雪乃を抱きしめる。背の高い雪乃は震えていた。


 告白によって、大学二年生から続いた友情に亀裂を入れる。雪乃は断られる可能性を強く感じていたらしい。両思いになれる期待より、嫌われるかもしれないという不安を抱えていたのだろう。


「雪乃、寒いから家に入ろう」


 私は一人暮らしのマンションに招き入れる。


 元々、千鳥足だった雪乃を泊まらせるために連れて来た。終電には余裕があったが、真っ赤な顔をした雪乃を電車に乗せられなかった。


 お持ち帰りした子が彼女になる。ドラマのような馴れ初めだ。身体目当てではなく、友達として心配したのだけれど。


 カクテルを飲みすぎた頭の中に、未来への不安はなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る