望む未来はかぎりなく遠く、けれども時間は早く過ぎていく。未だに空は暗く、空気は冷たく、自分がどこいるのかも分からない。
わかるのは、小さな火の下にある雪の影だけ。
そう考えた時、人はどんな寂しさに苛まれるのだろう。
誰かを欲するのは、肌寒くて寂しい時、ちょうど温めてくれる人が目の前にいるからだろうか。
火に背を向けてそこへ向かって、肌の温度が馴染みきったとき、今度は見えなくなった火が恋しくなったりするのだろうか。
消えかけた恋の炎に、別の木をくべる。
ただ、黒い後悔の煙だけが肺を満たし、黒い空にのぼっていく。
それでも思い出されるのは、甘くて幸福な時間だけ。
雪は溶けて消えていく。
春は何よりもあたたかく、ガラスを砕いたような光を伴ってやって来る。
それでも、雪闇の中で灯る火は、暖めなくとも美しかった。
多分思い出す限り、そうあり続けるのだろう。
恋人の有無やセクシュアリティに関わらず、このエッセイに読者として接する時、私たちは完全なる部外者です。しかしながらこの世界で人間として暮らしている以上、人間との付き合いを完全に断つことは不可能です。恋愛関係には至らないにせよ、人と人のお付き合いという点で、部外者であり続けることはできません。
本作はある女性と恋人としてお付き合いされた経験について記されたエッセイです。お相手への敬愛のこもった文章から、人と人が付き合うこと、その尊さについて教えていただいた気がします。
モヤっとしたレビューになってしまいましたが、万人に読んで欲しい素敵なエッセイです。
恋人とのお付き合いや結婚は、一人でできない。その最初、今から交際を始めるという時、二人ともが同時に同じだけの愛を抱えていることはあるんだろうか。
このエッセイを拝読して考えたのは、まずこれでした。
一方からの告白。「私で良かったら」と受け入れ、友人から恋人に視点が変わる。
今の世の中、まだまだ特別と言われてしまう関係。でもお互いを見ている限り、そこに不安はないようです。
後悔はあったでしょう。
告白しないほうが良かったのでは。そうしたって以前のままでは居られない。じゃあ他に選択肢はない。でも二度と会えなくなったら。
迷いはあったでしょう。
左利きの鋏を探すような日常。まだ知らない誰かに、なんと話すか。
互いの胸に愛を注ぎ合う。けれどどれだけ溜まったか、自分のも相手のも見えない。
恋しいとだけ、気持ちという結果が心を焦がす。
迷いや焦りがそれを減らしたり、色味や匂いを変えたりする。
きっとそうやってシーソーのように、どちらかが行き過ぎるのを繰り返すのが恋人同士なのだと思います。
お互いがお互いを、同じだけ好きでいる。そんな瞬間はないのだろうと思います。
このエッセイの結末はまでを読ませていただいて、とても胸が苦しくなりました。
やはりこのお二人は、とても大きな器を用意していたんだなと分かったから。
もっと、もっと。どこまでも注ぎ合ってほしいなとは、無責任な第三者であるところの私の感想です。
世の中、できることとできないことがあるのですよね。お二人に、いついつまでも幸福があることを祈ります。
口当たりの良い滑らかさや甘さだけではない、恋の苦味に満ちたエッセイです。
本作を読み終え、現実の恋情とはこういうものだという思いがどっと吹き出すようでした。苦くて痛くて、不確かで。幸せに辿り着く保証なんてどこにもない。同性同士の恋であれば尚更、容易には前進できない困難に遮られます。
けれど、その人を慕わしく思い、愛した事は間違いなくて。
一方向へうまくまとまらない複雑な感情。人間は、そんな手に負えない自分自身の心を必死に見つめながら進む道を選び取り、選んだ道を信じて前に進むしかない。そんなことを、改めて思いました。
重く深い余韻が残る作品です。
特別な恋愛をされた作者様のエッセイです。
読み終えてから、どんな言葉をかけたらよいか分からず、しばらく考えてしまいました。
文才があり、フィクションだって書ける作者様が、なぜ身を切るような思いをしてまで自身の体験を語りはじめたのか、ずっと疑問でした。
最後まで読み終えて、一番感じたことは、「この作者様は理解者を求めてるのではないか?」ということでした。
作品からは『愛』についてのメッセージが伝わってきて、なるほど共感を覚えるものでした。
ただ、個人的に、それ以上に浮かび上がってきたのは作者様像でした。
真面目で、聞き分けがよくて、言いたいことも言い出せずに胸の内にそっと飲みこんでしまう優等生。お会いしたことはありませんが、そんなタイプの方なのかな? と思いました。
そして、与えられた愛の意味も価値も分かるから、感謝の気持ちを常に抱き、愛を裏切ることに引け目や罪の意識を感じてしまう、そんな優しい心を持った方なのだと感じました。
でも、罪の意識を感じることはありません。もちろん、自分を責める必要もありません。
お相手も繊細でしたでしょうが、作者様もまた繊細です。
上手く言葉にはなりませんが、励ましたいと思い、こうしてレビューを書かせていただきました。
将来きっと作家になられる方だと思います。
あなたはあなたらしく、心の赴くままに進めばいいと思います。
今回の経験があなたの人生を豊かにし、あなた自身が美しい花を咲かせる糧となりますように。
……長く書きすぎたでしょうか。失礼なことがあったらごめんなさい。
この先さらに夢色に輝く素敵な人生を歩まれますよう、お祈りしています。
主人公は大学の時、同性である女性と付き合うことなった。それは二人にとって幸せな時間の始まりだった。主人公は大学卒業後に大学院に進み、彼女は就職した。コロナの流行によって、主人公は大学に行けず、論文が書けるか不安になっていた。そんな時も、彼女との会話で和むことができた。
二人は、お互いを尊重し合い、尊敬し合い、本当の意味でのベストパートナーだった。
主人公に、好きな人が出来る、その前までは――。
果たして、二人が迎える結末は?
主人公が好きになった相手とは?
ゆっくりと流れる時間と、幸福な彼女たちの関係に癒される一作でした。
是非、御一読下さい。