第13話 続く世界

 僕たちは地道に一つずつ施設を潰して収容

されていた人々を開放していった。当然深き

者どもたちの抵抗は凄まじかった。僕たちは

ハイドラだけを避けながら世界各地の施設を

襲った。深き者どもの絶対数も限られている

しインスマス面(づら)を増やすペースも追い

ついていなかった。人間とは個体数の総数が

違う。徐々に施設は解放されていった。


 但し、ハイドラを何とかしないと鼬ごっこ

のようなことが終わらない。新しい施設も少

しではあるが出来始めていた。ハイドラの動

きを封じないと、その思いが解放組織の中に

広がっていた時だった。


「マリアが呼んでいる?」


「そのようだよ、君に来てほしいらしい。何

か重要な話があるそうだ。」


「何でしょうか?」


「判らない。ただこのタイミングということ

は彼女を開放する代わりにハイドラの弱点で

も教えてくれる、とかじゃないかな。」


「そんな知識が彼女に?」


「あれでもセラエノ大図書館に暫らく滞在し

ていたのだから何かを知っていてもおかしく

はない。マーク=シュリュズベリィが居れば

彼女に頼ることもなかったのだけれどね。彼

とは連絡が取れていない。彼女はこのまだと

人類の敵として処分されてしまう可能性が高

いからね。」


 杉江統一、僕と綾野先生の二人がマリアを

閉じ込めてある部屋に入ると、彼女は両腕を

クロスさせる拘束服を着せられて腰には壁と

繋がるワイヤーが装着されていた。


「立場が替わりましたね、マリアさん。」


「そうね。意外ではないけれど。」


「そうなのですか?」


「全然。こういう展開も当然予想していたわ。

でないと面白くないでしょ。一つ間違えば立

場が逆転する、なんて素敵な展開なのでしょ

う。」


「そういうものですか。楽しんでますね。そ

れで僕を呼んだ訳は何ですか?」


「綾野先生まで呼んだ覚えはないけれど、ま

あいいわ、あなた一人では他の人たちに対し

て抑えが効かないでしょうから、綾野先生の

力は有用ね。」


「じゃあ私はここに居てもいいんだね。」


「どうぞ。むしろいてください。」


「判った。それで?」


 マリアは徐に話始めた。やはり彼女の要求

はハイドラを封印する方法を教える替わりに

自由を保障しろ、というものだった。


「その君が言うハイドラを封印する方法とは

確かに有効なのかね。」


「試してみないと何とも言えない。私もセラ

エノで見つけただけだから。勿論実行したこ

とはないし、その本が本物かどうかも定かで

はないわ。」


「ということは君の自由は確実にハイドラを

封印できてからの話、ということでいいのか

な。」


「仕方ないわね。それでいいわ。でも本当に

封印出来たら無条件で解放してよね。」


「判った。それで具体的にはなにをどうすれ

ばいいんだ?」


 それからマリアは事細かくハイドラの封印

について話を始めた。それは僕たちに取って

は十分用意できるものだった。『水神クタア

ト』はアーカム財団が所蔵していたし、他の

アイテムも短期間で揃えられるものばかりだ

った。


 僕と綾野先生が特に目立つように稼働し、

ハイドラの目に留まることで罠を張った。比

較的簡単にハイドラを誘き寄せることに成功

した。マリアの話す内容は本当だった。綾野

たちはハイドラを封印することに成功したの

だ。これで世界中の施設を開放できる。深き

者どもだけでは対抗しようもないはずだ。各

国の軍も徐々に組織として機能し出していた。


「では、わたしはこれで晴れて自由の身ね。」


 開放されるとマリアは颯爽と人々が普通に

あふれ出した街に消えていった。


「尾行を付けないのですか?」


「無駄だろうね、彼女もそれほど馬鹿じゃな

い。」


「ハイドラよりも彼女を自由にしたことの方

が人類にとって危険、なんてことはないです

よね。」


「杉江君、私も今それを考えていたところだ

よ。」


 マリアが消えた後、すぐにハイドラもまた

消えてしまったと報告が入った。マリアが提

示したハイドラを封印する、という方法はフ

ェイクだったのだ。最初からマリアとハイド

ラが仕組んでいたことだった。彼女は完全に

旧支配者側に寝返ってしまっていたのだ。旧

支配者側の最重要人物として今後は追われる

身となるだろう。


「僕がまだこの時代に居る、ということは、

まだ僕が対応しなけれればいけないことがあ

る、ということだと思います。今しばらくは

混乱が続くでしょうね。」


「頼りにしているよ、よろしく頼む。」


 綾野と杉江はマリアが消えた街をただいつ

までも見つめていた。


                  続く

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目覚めた世界 綾野祐介 @yusuke_ayano

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