第9話 如月結衣2
「ちょっといいかしら。」
「いいも何も選択肢はないでしょうに。」
「そう邪険にするものではないわ。用事があ
ってきているのだから。」
「あなたの用事であって僕の用事ではありま
せんから。で、何です?」
「あなたの血液からDNAを採取して調べて
みたんだけど。」
「DNA?そんなものを調べてどうするんで
すか?ああ、なぜ起きられたかを調べている
のでしたっけ。それで何か判りましたか?」
「あなたが普通ではない、ってことがね。」
「普通ではない?確かにそうでしょう。だか
ら僕は目覚めない筈なのに目覚めた、という
ことになるんですよね。何をいまさら驚いて
いるんですか?」
嫌味も何も彼女には通じないようだった。
「単刀直入に訊くわ。あなた、何者?」
「えっ?」
「あなたは何者なのって訊いているのよ。」
それが判れば苦労はしない。現状も過去も
自分自身も何一つ判らない状態で拘束されて
いるのだ。
「どういうこと?僕の何かがおかしかったと
か?」
「おかしいなんて次元じゃないわ。ここの設
備は元々の人間は勿論、旧支配者や外なる神
の眷属、従者、もっと言えば旧支配者本体や
外なる神本人のデータも揃っている。だから
この宇宙で比較できないデータはないの。判
る?」
何か彼女が苛立っているのは判った。何に
苛立っているのは判らなかったが。
「あなたのDNAはそのどれとも似てなかっ
たの。意味が解る?」
判る筈がなかった。そもそも何一つ判って
いないのだ。
「言葉も無いようね。この結果から導き出さ
れる答えは一つ、あなたはこの宇宙には本来
存在していない、ということ。」
「えっ?」
「えっ、じゃないわよ。だから訊いているの、
あなたは一体何者なの?」
「ちょっと待って、今考えるから。」
何かが頭をよぎった。この宇宙には存在し
ない?何かがもやっと浮かぶ。
「まだ入手していない宇宙人のDNAなんて
いくらでもあるだろうに。」
「あなたと宇宙物理学を議論する気はないわ。
今現在地球に存在する生物が全て、とした場
合の話をしているの。旧支配者や外なる神、
その眷属たちは時空を超えるから問題ないけ
ど人類はどう足掻いても他の人類が生存して
いる星にはたどり着けないようになっている
の。だから地球人と旧支配者たちで全部、と
考えて差し支えないってこと。考えて理解で
きた?」
「それならやばりほかの星から来た可能性は
あるじゃないか。」
「だから人類は他の星からは来れないんだっ
て。」
「いや、それはおかしい。旧支配者たちに連
れて来られたりすることもあるだろうに。」
彼女は意表を突かれた、という顔をした。
そんな簡単なことに思い当っていなかったの
だ。
「なるほど、一理あるわね。で、あなたは誰
か外なる神あたりに地球に連れてこられたっ
て言うの?」
「だから記憶がないんだって、ずっと言って
いるだろ。」
ただ、さっき、何かが浮かびかけた。あと
ちょっとの切っ掛けで思い出すかも知れない。
ただ、その切っ掛けが判らなかった。
「あと一つだけ可能性はあるわ。」
「可能性?」
「そう。あと一つだけ、でもそれはあり得な
いから最初から排除されている可能性。」
「それは可能性がない、っていうことじゃな
いのか?」
「いいえ。あまりにも荒唐無稽ではあるけれ
ども、最早それしか考えられない、という可
能性。」
「宇宙の外から来た、ってことよりはまだ高
い、ってことか。」
「そうね。旧支配者が時空を超えられるとし
てもあくまでこの宇宙の中での話だから。別
の宇宙、パラレルワールドにしても、この宇
宙の中の話なのよ。マルチユニバース間での
移動はあるかも知れないけれども、結局は同
じ宇宙が分岐しているだけだから、やはりあ
なたの存在はあり得ない。」
では、何だというのだ。
「その可能性は、この宇宙で唯一データが取
れない者たちの可能性よ。」
「唯一データが取れない?人間でも旧支配者
や眷属たちでもない存在がまだいるというの
か?」
「それは旧神と呼ばれる者たち。旧支配者や
外なる神との戦いに勝ち、奴らの封印に成功
した者たちの総称。」
「旧神?」
旧支配者といい、旧神といい、なぜ旧が付
くのだろうか。支配者が支配者で無くなった
から旧支配者だというのは判るが、とすると
旧神は神で無くなった存在たち、とうことに
なる。いずれにしても旧神とは何者なのだろ
うか。
「旧神は旧支配者を封印したのち眠りについ
てしまった。だから今は神としての機能は果
たしていない。そういう意味で旧神と呼ばれ
ているのよ。」
なるほど、今現在は神ではない、神として
の職務(職務と言うという表現でいいのかど
うかは不明だが)を果たしていないので旧神
なのか。では、今、神はどうしているのだろ
う?
「じゃあ僕はその旧神とやらのDNAを受け
継いでいるとでも?」
「だからデータがないから比較しようがない、
ってことよ。」
ああ、そうだった。旧神のデータは無いの
だ。僕と比較できないから旧神の眷属や子孫
なのかどうかが判断できないのだ。
「それで、旧神の子孫だったらどうなるとい
うんだ?」
「どうにも。だってそんな存在は今まで一例
も確認されていないもの。だいたい旧神なん
て個体数すら誰も知らないんだから。」
「じゃあ、考えても仕方ないってことか。そ
れで、今後は僕はどうなるんだ?他の人々と
一緒にここに閉じ込められて悪夢を見続ける
のか?」
「う~ん、そうね。でもまた起きるってこと
も考えられるとすると。ちょっと相談しない
と私だけでは判断できないわ。」
「相談?誰と?上司みたいなものが居たりす
るのか?」
「上司って感じじゃないけど判断を仰ぐ存在
は当然居るわよ、私が最高責任者じゃないも
の。」。
確かに十四歳の女の子が最高責任者とは思
えなかった(見た目は二十歳だが)。そう言い
残すと彼女は出て行った。
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