目覚めた世界
綾野祐介
第1話 逃げる
走っていた。何かから逃れるために、ただ
走っていた。
何から逃れようとしているのだろう。
恐ろしくて振り返れない。何かの、とても
恐ろしい存在に追いかけられている、それだ
けは確かだ。
追いかけてくるのは人間なのか動物なのか
幽霊なのか、或いは妖怪、魑魅魍魎の類か。
悪魔なのか天使なのか、もしかすると神様な
のか。
走っているが汗を掻いてはいない。掻いて
いるのは間違いなく冷や汗だ。走っているこ
とよりも追いかけて来るものの所為だ。
ずっと走っている。ただ、ただ、走ってい
る。追いつかれないために走っている。但し、
追いつかれたことはない。ずっと逃げている
が一度も追いつかれたり捕まったりはしてい
ない。
捕まらないなら、追いつかれないのなら走
って逃げる必要がない気もする。でも、それ
以上に恐ろしいから逃げているのだ。
走るのをやめると追いつかれる気がする。
それも、気がするだけで逃げることを止めた
ことはないので本当に追いつかれるのかは判
らない。
ずっと走っている。にも拘らず、疲れたり
しない。スタミナにあふれているのか。元々
それほど運動が得意な方ではない。持久走な
ど特に苦手だった。それがこのスピードで走
り続けられるはずがない。何かがおかしい。
道はくねっている。アスファルトではなく
土の道だ。ずっと先までは見えない道だ。田
舎道のようにも思える。登ったり降ったり右
に曲がったり左に折れたり。ただ、ただ、走
って逃げている。
場面が突然切り替わった。やはり夢か。現
実ではありえない展開だ。
今度は都会の真ん中だった。路地をすり抜
けながら逃げる。人混みを抜けて逃げる。他
の誰も逃げてなどいない。逃げているのは私
だけだ。
「誰か助けて。」
叫びながら走ったが誰も振り向きさえしな
い。まるで私が見えていないかのように。そ
うか、私が死んでしまっている、ということ
もあり得るのか。では追いかけて来るのは死
神かも知れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます