喜びに打ち震えろ。文学の上質さが、ここにはある。
- ★★★ Excellent!!!
コーヒーとミルクだ。
私はこの小説を読了ったとき、かき混ぜられて一つに溶けていくブレンドコーヒーのことを想った。
言うまでもないが、コーヒーとミルクは当然比喩だ。
それは、古さと新しさのほどよい融和を意味している。
どういうことか?
それは後述するとしよう。
この作品は、字書きの主人公やその周囲の人間たちをとおして、現代人の憂鬱さや、字書きとしての思想や本質に切り込んでいる。しかも、ここで書かれる半分は作者の体験が元になっているというから、そういう意味で非常に文学的な作品である。
まだ二話で、話の展開がどうなっていくのかはこれからの楽しみだが、現段階でも豊富な語彙の楽しさが光っており、文章を好きなものからすると垂涎ものであることは、私が間違いなく保証する。
――さて、コーヒーとミルクの話をしようじゃないか。
秘密は、文体と思想である。
非常に文学的な文体から漂う雰囲気は、昭和初期の私小説の最盛期を思わせるノスタルジックなものがあり、「インターネット」という言葉が出てきただけでも、いい意味での違和感で楽しくなるほどだ。令和にネット小説を読んでいて、インターネットという言葉をハイカラに感じることがまさかあろうとは。その新鮮な感覚に、私は素朴な感動を覚えた。
しかし、だからといってこの作品が古いということを言いたいわけではない。古さの上に、新しい時代の精神や思想が柔らかく降りかかり、混ざりあっている。それは、主人公や友人のオイルとのやり取りや、風景に細かく散りばめられた世相と構造物、街で出会うちょっとした人間たちの様子からでもうかがえる。
昭和の土の硬さではない。現代のコンクリートのたしかな地盤の強さのようなものが感じられるのだ。
その二つの取り合わせが、得も言わぬ不思議な感覚となって、見るものの網膜の裏までもを刺激していく。
それは、まさに「新しい」感覚だ。そう、古さと新しさが混ざり合い生まれた世界観と雰囲気は、新しいものとして昇華されているのだ。
その一見すると螺旋のような捉え方は、しかし矛盾しているとは思えない。
その構造をとって見ても、まさに文学だろう。非常にレベルの高い、読み物として成熟した作品である。
私のレビューは、自分の感覚や感動を文字にしたものだから、もしかすると作者の言わんとする本質からはズレているのかもしれない。
が、私のレビューをきっかけに、この作品を読んで、考察を深めてくれる優れた読者が現れることを期待したい。
この作品には、それだけの力がある。