小説を書く者の本質に迫る

『地方都市の主要駅前のささやかな華やぎからは少し外れた場末の飲み屋通りの薄暗い路上を、滔滔と灯った店店が躁鬱めいた様子で疎に照らしていた。』

たった1文で、ここまで見事な雰囲気作りや情景描写をできる作家さんが、どれほどいるでしょうか。稀な才能を感じます。

舞台は令和でありながら、昭和を想起させるパラレルワールド。それだけでも魅力的なのですが、さらに主人公たちの会話が矛盾や欺瞞に満ちており、それがこの小説をより難解に、また高尚なものにしています。

小説書きの心を「これでもか」というほど抉ってくる本作。しかし、そこから逃げずに向き合うことで、見えてくる世界がある。私にはそう思えます。

小説書きとしての本質を考えさせられる、稀有な小説です。

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