第18話 失敗
「ゼンくん、あぶない!」
「え…………?」
僕は、トレントに斬りかかっていた。
そう、確かにトレントまで距離を詰めて、やつの枝を斬り落としたつもりだった。
だが……。
その側面から、別の枝が迫っていることに、気づかないでいたのだ……!
「っく…………!」
シロさんが、僕の後ろからやってきて……。
「ゼンくん……!」
「シロさん……!?」
――ドン!
後ろから、僕を押しのけた。
僕はシロさんに押されて、地面に倒れる。
そしてシロさんは、僕のかわりに、トレントの触手に捕まってしまう。
「ぐああああああああああ!」
「シロさん…………!?」
クソ……しまった……!
僕のせいで、シロさんが……!
シロさんは僕を庇って、トレントに捕まってしまう。
トレントは触手で捕まえたシロさんを、魔法で狙い撃ちにするつもりだ。
口元で、魔法を練って蓄えている。
「シロさん……!」
「ゼンくん、私は大丈夫……! だから、はやくこの枝を斬って……!」
「は、はい…………!」
僕のせいでシロさんを危険に晒してしまった。
そのことは、僕にとてつもない後悔を植え付けた。
僕が、慢心したせいで……。
でも、今はそんなことで落ち込んでいる場合じゃない。
なんとしても、一刻も早く、シロさんを救い出さないと!
「えい…………!」
――スパ……!
――スパ……!
僕はシロさんを捕えている枝を、剣ですぐさま切って落とす。
なんてことはない、2人でちゃんと連携すれば、苦戦すらしない相手なんだ。
「よし……! 抜け出せたぞ……! ゼンくん、ありがとう!」
「いえ…………すみません…………」
お礼を言われても、僕は浮かない気持ちになるだけだ。
だって、もとはといえば、僕のせいなんだから。
僕はそのマイナスを、取り返したにすぎない。
「ゼンくん、今は戦いに集中して……!」
落ち込む僕に、シロさんが檄を飛ばす。
「は、はい…………!」
そうだ、まだトレントは、いまにも魔法を撃ちだしそうな顔で、こちらへ対峙している。
まだ戦いはおわったわけじゃない。
シロさんを触手から解放したにすぎない。
「くるよ…………!」
「…………!」
トレントから、魔法の光線が発射される。
――ズビビビビビビ……!
それは酸のような性質を持っているようで……。
あたった地面が、どろどろに溶けてしまっていた。
僕たちは、なんなくそれを避ける。
だが、もしあのまま触手に掴まれたまま、シロさんにあれが直撃していたら……。
そう思うと、僕は気が気でない。
僕は、とんでもない失敗を犯した。
「シロさん……!」
「大丈夫、ゼンくん……! あとはアイツを倒すだけだ……!」
僕とシロさんは、せーので力を合わせてトレントに突進する。
二人でかかれば、なんてことはない。
――ズバ……!
――ドーン……!
トレントを左右から一刀両断!
「ふぅ…………」
これにて、討伐完了だ。
「シロさん、ほんとに……勝手なことをしてすみません。僕……役に立つどころか、足でまといに……」
「ゼンくん……いいんだよ。そのために私が付いているんだから。戦いに失敗はつきものさ。もし君が失敗しても、私がカバーする。そう言うもんだろ……?」
「シロさん……」
シロさんは、ぼくを優しく抱きしめてくれた。
鎧が固くて、シロさんの胸の部分に顔を埋めても、固いだけだ。
でも、その鎧の冷たさが、なんだか今の僕にはここちよかった。
「僕……もっと頑張ります……! こんどはシロさんをちゃんと、護れるように……!」
「ああ。たくさん失敗して、たくさん学ぶといい。君のその頑張ろうとする気持ちは、本当にうれしかったんだから……」
「シロさん……」
ほんとうに、強くて優しい人だ。
僕はますます、この人のことが好きになった。
「ま、それに…………あの程度の魔法じゃ、私はなんてことないよ……!」
「え…………!?」
「あはは……ちょっと、おどろかせちゃったかな……?」
「そ、そうだったんですかぁ……!?」
それが本当なのか。
単に僕を安心させるための嘘なのか。
それはわからないけど、シロさんはそう言った。
ほんとうに……シロさんには敵わないや……。
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