第16話 すれ違い


「あれ……? なんでシロさんが昇格試験のことを知ってるんですか……?」


  僕がふと口にした疑問に、シロさんは明らかな動揺を見せた。


「あ、えーと……そ、それはだな! ギルドで受付嬢さんに聞いたんだ!」


 シロさんは明らかに誤魔化すような感じでそう言った。


「なーんだ、そうだったんですか」

「そうだよ! 私はいつもゼンくんの動向には興味を持っているからね……!」


「え……それって……」

「じゃ、じゃあ……私はこれで……!」


 そう言って、シロさんは逃げるように去っていった。

 まさかシロさんって……。



「僕のこと……好きなのかな……?」



 なーんて、そんなこと……。


「あるはずない……か」


 僕はそうつぶやいて、一人家路を急ぐのだった。





 翌日僕は、いつものようにラフラさんの元へ。


「聴いてくださいラフラさん! 昨日、またシロさんに助けられたんです!」


「そ、そうなんですかぁ! それは、よかったですねえ」


 ラフラさんはなにやら気になることがあるようで、心ここにあらずといった感じ。

 どうしたんだろうか……?


「やっぱり、シロさんと僕は運命で結ばれているんですよ!」


「へぇ……!?」


 またおかしなことに、ラフラさんが目を丸くして驚く。

 そんなにおかしなことを言ったかなぁ……?

 まあ、僕なんかがシロさんにあこがれてる姿は、ラフラさんから見たらちょっと滑稽なのかもしれないけど……。


「とにかく! 僕とシロさんにはなにか縁があるはずなんです!」


「そ、そうかもしれませんねぇ……」


「きっと僕とシロさんは、このまま将来結婚する運命なんですよ! えへへ……なんて、それはちょっと言い過ぎですかね……?」


 僕はラフラさんの前で、惜しみなく妄想を垂れ流す。

 ラフラさんは優しくて、話し上手なせいで、ついつい本音を話してしまう。

 そういう意味では、ラフラさんも相性のいい異性ではあるよなぁ。


「…………って、ラフラさん? きいてます?」


 返事がない、ただの受付嬢のようだ……。

 なぜだかラフラさんは顔を赤くして、またカウンターにうずくまっている。


「ぜ、ゼンくん……もう、いいです……やめて……」


「あ、はい。す、すみません……つい調子にのっちゃって」


 さすがにラフラさんからすれば、聞くに堪えない話だったかな……?

 僕は少し、反省する。


「それにしても、昨日のシロさん、なにか様子がおかしかったんですよねぇ……」


「ギク……」


「ギク……?」


「あ、いえ……なんでも」


 そういえば、僕のことを受付嬢さんに聞いたとか言っていたな……。

 それってもしかして、ラフラさんのことだったりするのかな……?

 前にシロさんを証言に呼んでくれたのも、ラフラさんだったし。

 この2人にはなにかあるのかもしれないな。


「あ、ラフラさん……。ラフラさんって、シロさんに僕のことを話したりしました……?」


 僕は単刀直入にそう聞いた。


「ぐふぅ……!!!!」


「ラフラさん……!?」


 ラフラさんはまるでボディブローを喰らったかのように吹き出した。

 なにか、訊いてはいけないことだったのかな……?

 まあ、シロさんはギルドからしても、トップシークレットなのかもしれない。


「え、ええ……まあ……ちょっとお話……した……かな……?」


 なんとも曖昧な言い方だけど……。

 それでもラフラさんの誠意は伝わった。

 きっとシロさんに関することは、ギルド長から止められているのだろう。


「そうなんですか! やっぱり! ラフラさんて、シロさんと面識があるんですねぇ!」


「ま、まあ……そのへんは……なんとも……」


「僕の好きな人同士が、お友達なんて、なんだかいいなぁ」


「へ…………? す、すすす好きな人……!?」


「あ、いえ……ラフラさんはあくまで、受付嬢さんとして、お友達として好きなんです……!」


「あ、はい……そ、そうですよね……」


 おっと……僕としたことが、口を滑らせてしまったな。

 もちろん、ラフラさんのことも、女性としても魅力的だと思っている。

 でも、あくまで僕のあこがれはシロさんなんだ。

 きっと、シロさんがいなかったら、ラフラさんにも惚れていたかもしれない。

 だって、とっても話しやすいし、気が利くし……優しいし。


「シロさんは僕のこと……どう思ってるんだろう……」

「え……?」


「シロさん、なにか言ってませんでしたか……? その、僕について」


 ここはシロさんのことをよく知るであろうラフラさんにきくのが一番だ。


「え、えーっと……その、すごい才能だと言っていました! よ……?」


「そうですか……。まだまだ僕は対等とは見られていないんですね……」


 まあ当然だ。

 シロさんからすれば、僕はよくてかわいい後輩程度の感じだろう。

 はやくシロさんに追いついて、僕も男として見てもらえるようにならないと……!


「ラフラさん! 僕、もっと頑張ります! もっと頑張って、そしてシロさんと並んだとき、そこでようやく告白するんです……!」


 きっと今の僕じゃ、その資格すらない。

 いつかもっと強くなって、そのとき初めてシロさんに思いを伝えよう。


「ゼンくん……。かっこいい……。その意気です! きっと、シロさんもその思いにこたえてくれますよ! 私も、応援します!」


「ラフラさん、ありがとうございます!」


 僕は、Cランク冒険者として、心意気新たに、さらなる一歩を踏み出した……!

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