第9話 ~受付嬢さん視点~
ある日、私はゼンくんと待ち合わせをしていた。
「やあゼンくん! お待たせ!」
「いえ……ぜんぜん待ってませんから」
ゼンくん、やっぱり優しい人だ。
準備をしていて少し遅れてしまったのに、気を使ってくれている。
ゼンくんの職業はヒーラーだ。
でも、私は彼に剣の才能があることを見抜いていた。
ゼンくんの職業を聞いたのは、昼間の私。
なので、わかっていながら、もう一度確認をする。
「ゼンくん、君は……なんの職業なんだい?」
「え、僕はヒーラーですけど……」
「そうか……でも、私が思うに……。君は剣士に向いていると思うんだよね」
「え……!? ぼ、僕が剣士にですか……!?」
ゼンくんは自信なさげに驚いていた。
そういうところも素直でかわいい。
でも、私の目に狂いはないはずだ。
「で、でも……僕はその、弱虫ですし。向いてませんよ……戦うのなんて……」
「そんなことないよ! 私が教えてあげるから、ちょっと剣を持ってみない?」
「そ、そうですか……? シロさんがそう言ってくるなら……」
私が教えれば、ゼンくんはきっといい剣士になるはずだ。
なんたって、この白銀の死神が教えるんだから!
ゼンくんに合った剣を渡し、素振りさせてみる。
「えい……!」
「よし! いいセンスだ!」
私は剣をふる彼の姿をみて、ゾクゾクっとしていた。
まさに、天才とはこういうのを言うのだろう。
どうして彼に今まで誰も剣を持たせてこなかったのか、不思議なくらいだ。
意地悪なガイアは、それを見抜いていて、あえて彼をヒーラーという目立たない役にしたがったのかもしれないが……。
とにかく、ゼンくんは紛れもない、生まれながらの剣士だ!
「じゃあ、さっそくダンジョンへいってみようか!」
「えぇ!? もう実戦ですか!?」
「うん! 鍛えるにはやっぱり実際にやってみるのが一番だよ!」
◇
ということで、私とゼンくんはまたダンジョンへやってきた。
【
「うぅ……僕がこんなところで、戦えるんですか……?」
「安心して、私がゼンくんにバフをかけるから」
私がバフをかけることで、ゼンくんでも十分にここで戦えるようになる。
さて……バフもかけたことだし、そろそろ行くか……。
そう思ったときだった――。
「シロさん、危ない……!」
「…………!?」
私の後ろに、なにか気配を感じる。
モンスターの不意打ちか……!?
だけど、間に合わない……!
――ズバ!
「キュィーン!」
それは、洞窟に生息する【マジックバット】というコウモリモンスターだった。
なんと、ゼンくんがそれを、斬って倒したのだ。
私のバフがあるとはいえ、なんという反射神経……。
私はゼンくんに、護られてしまった……。
「あ、ありがとうゼンくん。私を守ってくれたんだね」
「い、いえ……シロさんなら僕がいなくても大丈夫でしたよ……」
「いや、そんなことないよ。ゼンくんのおかげで傷が一つ減った」
「よかったです……」
なんていい子なんだろう……。
やっぱり、彼も男の子だ。
未熟ながらも、私を守ってくれる、強い男性。
私はそんな彼に、ますます惹かれているのを感じた。
「ゼンくん、すごいね……! やっぱり剣の才能があるよ!」
「えぇ……!? ホントですか!?」
私は誤魔化すために、ゼンくんを褒める。
うぅ……さっきの姿がかっこよすぎて、目を見れない……。
◇
ゼンくんが隣にいるせいで、私は浮かれていた。
ダンジョンの中だというのに、まるでデート気分だ。
そのせいで、油断し、けがを負ってしまう。
「う……!」
「シロさん……!?」
「大丈夫ですか……?」
「これくらい、いつものことだよ」
「待ってください、今治療します」
だがゼンくんはすぐに駆け寄ってきてくれた。
そして私に優しく寄り添い、ヒールをかけてくれる。
ああ、本当に優しくて、温かい。
――ポウ。
「ありがとう、ゼンくん」
「いえ。このくらいしかできないですが……」
だが……これはただのヒールではないような気がする……。
まさか、ゼンくんは剣士としての才能だけじゃなく……。
ヒールでも特別な才能を……!?
「あれ? シロさん?」
「ね、ねえゼンくん……? これって、ただのヒールなの?」
「え、そのはずですけど……」
いや、それは違う……。
これは明らかに、ヒールにバフがかかっている。
特殊なヒールだ。
「ゼンくんのヒール、バフがかかってるんだけど……?」
「えぇ……!? そ、そうなんですか!?」
未熟なものなら、ヒールで体力が回復したことによって、力が増したのだと単純に錯覚するだろう。
だけど、私にはわかった。
これは、ヒールに含まれるバフによって、力が上がっている!
「なんだか、ゼンくんのヒールを受けて、強くなった気がする……!」
「そ、そうですか! よかったです!」
「すごいよ! ゼンくんのバフは! 私のバフ以上だ! まさかバフの才能もあるなんて!」
「いえいえ、シロさんがすごいだけですって!」
その後の私は、まさに無双状態だった。
モンスターをどんどん蹴散らして、あっというまに目的の箇所の調査を終えた。
さすがはゼンくんのヒールだ。
彼にはまだまだ、たくさんの伸びしろがあるんだな……。
それは今まで、意地悪なパーティーメンバーのせいで隠されていた……。
私はそれを、存分に活かしてあげたい……!
「じゃあ、今日はもう疲れただろうから、帰ろうか」
「そうですね。ありがとうございました!」
また、次にゼンくんに会えるのが楽しみだ!
翌日、私は受付嬢ラフラとして、またゼンくんに褒められ、悶絶することになる……。
ゼンくんはいまだに、シロとラフラが同一人物だということを知らないのだ……。
はぁ……心臓に悪い……。
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