第9話 ~受付嬢さん視点~


 ある日、私はゼンくんと待ち合わせをしていた。


「やあゼンくん! お待たせ!」

「いえ……ぜんぜん待ってませんから」


 ゼンくん、やっぱり優しい人だ。

 準備をしていて少し遅れてしまったのに、気を使ってくれている。

 ゼンくんの職業はヒーラーだ。

 でも、私は彼に剣の才能があることを見抜いていた。

 ゼンくんの職業を聞いたのは、昼間の私。

 なので、わかっていながら、もう一度確認をする。


「ゼンくん、君は……なんの職業なんだい?」

「え、僕はヒーラーですけど……」

「そうか……でも、私が思うに……。君は剣士に向いていると思うんだよね」

「え……!? ぼ、僕が剣士にですか……!?」


 ゼンくんは自信なさげに驚いていた。

 そういうところも素直でかわいい。


 でも、私の目に狂いはないはずだ。


「で、でも……僕はその、弱虫ですし。向いてませんよ……戦うのなんて……」

「そんなことないよ! 私が教えてあげるから、ちょっと剣を持ってみない?」

「そ、そうですか……? シロさんがそう言ってくるなら……」


 私が教えれば、ゼンくんはきっといい剣士になるはずだ。

 なんたって、この白銀の死神が教えるんだから!

 ゼンくんに合った剣を渡し、素振りさせてみる。


「えい……!」

「よし! いいセンスだ!」


 私は剣をふる彼の姿をみて、ゾクゾクっとしていた。

 まさに、天才とはこういうのを言うのだろう。

 どうして彼に今まで誰も剣を持たせてこなかったのか、不思議なくらいだ。

 意地悪なガイアは、それを見抜いていて、あえて彼をヒーラーという目立たない役にしたがったのかもしれないが……。

 とにかく、ゼンくんは紛れもない、生まれながらの剣士だ!


「じゃあ、さっそくダンジョンへいってみようか!」

「えぇ!? もう実戦ですか!?」

「うん! 鍛えるにはやっぱり実際にやってみるのが一番だよ!」





 ということで、私とゼンくんはまたダンジョンへやってきた。

深淵の大穴ブラッドアビス】――人類が今、絶賛攻略中の最前線のダンジョンだ。


「うぅ……僕がこんなところで、戦えるんですか……?」

「安心して、私がゼンくんにバフをかけるから」


 私がバフをかけることで、ゼンくんでも十分にここで戦えるようになる。

 さて……バフもかけたことだし、そろそろ行くか……。

 そう思ったときだった――。


「シロさん、危ない……!」

「…………!?」


 私の後ろに、なにか気配を感じる。

 モンスターの不意打ちか……!?

 だけど、間に合わない……!


 ――ズバ!


「キュィーン!」


 それは、洞窟に生息する【マジックバット】というコウモリモンスターだった。

 なんと、ゼンくんがそれを、斬って倒したのだ。

 私のバフがあるとはいえ、なんという反射神経……。

 私はゼンくんに、護られてしまった……。


「あ、ありがとうゼンくん。私を守ってくれたんだね」

「い、いえ……シロさんなら僕がいなくても大丈夫でしたよ……」

「いや、そんなことないよ。ゼンくんのおかげで傷が一つ減った」

「よかったです……」


 なんていい子なんだろう……。

 やっぱり、彼も男の子だ。

 未熟ながらも、私を守ってくれる、強い男性。

 私はそんな彼に、ますます惹かれているのを感じた。


「ゼンくん、すごいね……! やっぱり剣の才能があるよ!」

「えぇ……!? ホントですか!?」


 私は誤魔化すために、ゼンくんを褒める。

 うぅ……さっきの姿がかっこよすぎて、目を見れない……。





 ゼンくんが隣にいるせいで、私は浮かれていた。

 ダンジョンの中だというのに、まるでデート気分だ。

 そのせいで、油断し、けがを負ってしまう。

 

「う……!」

「シロさん……!?」

「大丈夫ですか……?」

「これくらい、いつものことだよ」

「待ってください、今治療します」


 だがゼンくんはすぐに駆け寄ってきてくれた。

 そして私に優しく寄り添い、ヒールをかけてくれる。

 ああ、本当に優しくて、温かい。


 ――ポウ。


「ありがとう、ゼンくん」

「いえ。このくらいしかできないですが……」


 だが……これはただのヒールではないような気がする……。

 まさか、ゼンくんは剣士としての才能だけじゃなく……。

 ヒールでも特別な才能を……!?


「あれ? シロさん?」

「ね、ねえゼンくん……? これって、ただのヒールなの?」

「え、そのはずですけど……」


 いや、それは違う……。

 これは明らかに、ヒールにバフがかかっている。

 特殊なヒールだ。


「ゼンくんのヒール、バフがかかってるんだけど……?」

「えぇ……!? そ、そうなんですか!?」


 未熟なものなら、ヒールで体力が回復したことによって、力が増したのだと単純に錯覚するだろう。

 だけど、私にはわかった。

 これは、ヒールに含まれるバフによって、力が上がっている!


「なんだか、ゼンくんのヒールを受けて、強くなった気がする……!」

「そ、そうですか! よかったです!」

「すごいよ! ゼンくんのバフは! 私のバフ以上だ! まさかバフの才能もあるなんて!」

「いえいえ、シロさんがすごいだけですって!」


 その後の私は、まさに無双状態だった。

 モンスターをどんどん蹴散らして、あっというまに目的の箇所の調査を終えた。

 さすがはゼンくんのヒールだ。

 彼にはまだまだ、たくさんの伸びしろがあるんだな……。

 それは今まで、意地悪なパーティーメンバーのせいで隠されていた……。

 私はそれを、存分に活かしてあげたい……!


「じゃあ、今日はもう疲れただろうから、帰ろうか」

「そうですね。ありがとうございました!」


 また、次にゼンくんに会えるのが楽しみだ!

 翌日、私は受付嬢ラフラとして、またゼンくんに褒められ、悶絶することになる……。

 ゼンくんはいまだに、シロとラフラが同一人物だということを知らないのだ……。

 はぁ……心臓に悪い……。

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