第12話 ジャイアントオーク


 森をさらに進むと、だんだんと薄暗く、気味の悪い地帯になってきた。


「うう……ジャイアントオーク……くるならこい!」


 どうやらこの辺が行き止まりなようだ。

 ということは、ジャイアントオークもこの辺りにいるに違いない。


「あれ……? どこなのかな……?」


 確かに何者かの気配はするけど、その姿が見えない。

 僕はあたりをきょろきょろと見回した。


 だが、その隙に……!

 それを狙っていたかのように、後ろから巨大な斧が振り下ろされる。


 ――ズシャ……!


「うわ……!?」


 僕はギリギリでそれをかわす……そのはずだった。

 だが、腕が大きく切れてしまい、血がドバっと噴き出る。


「く……!」


 僕は転がり、受け身を取ってその場から距離をとる。

 くそ……油断した。


「グオオオオオオ!!!! ニンゲン、コロス!」


 ジャイアントオークは、僕を待ち伏せしていたのだ。

 地面に倒れている僕を見て、ジャイアントオークはにやりと不気味な笑みを漏らした。


「くそ……ジャイアントオーク、こんなに知能の高いモンスターだったなんて……」


 ただのオークとは比べ物にならないくらい、強敵だ。

 力も、知能も、残忍さも……。

 ジャイアントオークは、無防備な僕に、ずしんずしんと忍び寄る。

 まるで、僕に寿命が一歩一歩縮まっていくようだ。


「どうしよう……」


 僕は、僕にできることを考えた。

 シロさんがいれば……。

 いや、ここにシロさんはいない。

 僕はひとりで、このくらい対処できるようにならないと!


「ヒール……!」


 僕は自分にヒールをかける。


「よし、成功した……!」


 さっきの腕の痛みは引いていた。

 なにせ、自分にヒールをかけることはこれが初めてといってもいいくらいなのだ。

 今までは、後ろからみんなにヒールをちょこまかとかけるだけだった。

 それに、僕が多少傷を負っても、ガイアに「お前は後回しだ! 先に俺を回復しろ!」と言われてたからね……。


「これで、まだ戦える……!」


 僕はなんとか恐怖に打ち勝ち、立ち上がる。

 ジャイアントオーク、シロさんが普段戦っている敵と比べれば、こんなのは雑魚だ!


「うおおおおおおおお!」

「グオオオオオオ!」


 僕はジャイアントオークに向かって、走った!


 ――ズシャ……!


 あれ……?


 さっきまであれだけ怖くて、強敵に見えていたジャイアントオークだったが……。

 僕の剣は、簡単にその身体を傷つけた。

 まるでプリンのように、柔らかい肉質だ。


「しかも……遅い……!?」


 ジャイアントオークが、さっきまでとはちがい、止まって見える。

 気の持ちようだけで、こんなにも違うのか……?


 いや、そうじゃない。

 僕のヒールだ……!


 僕は今まで、自分にヒールを使ってこなかった。

 自分の傷は、安価なポーションで代用させられてきたからね。


「これが、シロさんが言ってたバフか……!」


 自分にヒールを使ってみて、ようやく実感できた。

 わずかだが、意識が加速したような感じがする。

 でも、きっとこれは言われないと気づかないレベルの違いだ。

 ガイアたちは僕のバフに慣れ過ぎて、気づかなかったのかもな……。


「よし、これなら僕でも戦えるぞ……!」


「グオオオオオオ……!?」


 ジャイアントオークは、自分の抉られた身体にようやく気付いたようで、困惑している。

 もう、あんなのはでくの坊にしか見えない……!

 いける……!


「うおおおおおお! とどめだ!」


 僕はジャイアントオークに後ろから斬りかかった。


 ――ズシャァ……!


 みごと剣はジャイアントオークの首の裏を貫通……!

 これにてクエストクリアだ……!


「やったぞ……!」


 これで、ラフラさんにもいい報告ができる。

 それになにより、シロさんにもまた認めてもらえる……!


 僕はうきうきとした気分で、家に帰った。





 ダンジョンを出るゼンを、後ろから見つめる人物がいた――。


「よし……! さすがはゼンくんだ……! 私の見込んだ通り……!」


 そう、その人物とは、シロでありラフラ。

 彼女は、ゼンにこの危険なクエストに挑ませた手前、その身も案じていた。

 もしゼンに危険があれば、シロとして助けに入るつもりだったのだ。


「もちろん、ゼンくんならやれるって信じてたけどね……!」


 まるで我が子を見守るように、シロはずっと後ろからゼンを見守っていたのだった。

 そのことを、ゼンはつゆほども気づかずに、ダンジョンを後にする。

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