憧れのS級冒険者さんの正体がギルドの受付嬢さんだった件。感謝の思いを語っていたら、いつの間にか口説いていたようで、知らない間に惚れられていました。奈落に追放されたけどいっしょに鍛えて世界最強!

月ノみんと@成長革命2巻発売

第1話 奈落への追放


「ゼン、悪いがここでパーティーを抜けてくれないか?」

「え……?」


 パーティーリーダーで幼馴染のガイアからの申し出に、僕は言葉を失った。

 赤髪の健康そうな肉体のこの青年が、ガイアだ。


 別に、パーティーを抜けるというのは百歩譲って、理解できる。

 でも……なにもこんなときに言わなくてもいいじゃないか。

 だって――。


「で、でも……ガイア。ここはダンジョンの中なんだけど……?」


 難易度Aランクダンジョン【深淵の大穴ブラッドアビス】の第5階層。

 僕たちはそこにいた。

 非常に危険なモンスターがうようよしている中で、僕一人置いていかれてはたまったもんじゃない。


「んなことはわかったうえで言ってんだよ! 殺すぞボケェ!」


 そう言って僕の肩をドンと押してきたのはガイアの友人で、パーティーの盾役であるダンだ。

 僕はガイアの幼馴染ということでパーティーに入れてもらっているけど、正直このダンという男は苦手だ。

 大きなからだと大きな声で、僕を威嚇してくる。


「ど、どうして……! せめて理由を教えてくれないか?」

「それはお前がもう足手まといだからだ」


 ガイアは冷たくそう言った。

 そんな……!

 僕は必至にここまで回復ヒールをしてきたっていうのに。


「僕の回復が必要ないっていうのか!?」

「そうだな、でももうMPが切れているだろ?」

「う……それは……」

「回復薬も残り少ない。そんな状態で、ここから無事に帰るのは危険だって、わかるよな? でも、お前がここに残ってくれれば、すごく助かるんだ」


 たしかにMP切れのヒーラーなんて、足手まといだろう。

 でも、僕は確かに忠告したんだ。

 これ以上先に進むのは危険だって。


 それに対して、MP切れなんか気にするな!

 まだ回復薬があるじゃないか!

 と僕にヒールを使わせたのは、ガイアじゃないか!

 いざ引き返すとなって、そんなことを言われても……勝手すぎる!


「で、でも……回復薬だって僕が持ってるんだけど……?」


 そう、回復薬の管理も僕の仕事だった。

 なぜなら僕しかアイテムボックスを使えないからだ。


「んなことわかってんだよ! ごちゃごちゃ言わねえでさっさと回復薬を出せ!」

「う……わかったよ……」


 ダンに怒鳴られて、僕はしぶしぶ残りの回復薬を渡す。

 でも……本当に僕のMP切れだけが理由なのか?

 まだ回復薬を温存しながら行けば、僕を連れて帰れるんじゃないのか?

 それに、アイテムボックスがなかったら彼らも困るだろう。


「ね、ねえガイア! 本当に僕を置いていくのか? アイテムボックスはいらないのか……!?」


 僕はなんとか助かろうと、ガイアにすがりつく。

 だけど、ガイアは笑ってこう言った。


「あー、忘れてたわ。アイテムボックス……な。それ、もう要らねえんだわ」

「え……?」


 どういうことなんだ……?

 僕のスキルがもういらない……?


「おい、ミーナ。見せてやれ」

「わかったわ」


 ガイアは、パーティーメンバーのミーナにそう言った。

 ミーナは巨乳の魔術師で、ガイアのお気に入りだ。

 金髪の長髪を揺らしながら、ミーナは魔法を使った。


「《アイテムボックス》――!」

「そんな……!」


 なんでミーナが僕のアイテムボックスを……!?

 それは……僕にしか使えないユニークスキルのはずだ。


「はっはっは……ここまで長かったよ。ミーナがアイテムボックスをマスターするまでね……」

「ガイア……! ど、どういうこと……!?」


 僕をあざけるように、ガイアは言った。


「単純なことさ。お前をわざわざパーティーに入れていたのはミーナに魔法でさせるためだ。というか……そもそもお前と幼馴染になったのもその能力目当てなんだけどな……!」

「う、嘘だろ……! そんな……最初から、その気で僕に近づいた……!?」


 僕は足元が崩れ去るような思いだった。

 信じていた幼馴染に、裏切られたんだ。


「ま、そういうことなのよ。私がアイテムボックスを使えるようになったから、アンタは用済みってわけ。今までお疲れ様」

「っく……!」


 まさか知らない間にスキルをコピーされていたなんて……。

 確かにミーナならそれくらいできてもおかしくはない。

 彼女の魔法は一流だ。


「ねぇ、いつまでごちゃごちゃやってるのよ。もうは済んだでしょ? さっさと帰りましょうよ」

「ああそうだな、ルカ」


 ガイアに腕を絡ませ、甘い声を出しているのはルカという女性だ。

 彼女はダークエルフの弓使いだ。


「も、目的……?」


 ルカの言いように、僕は引っかかった。

 このダンジョンに来た目的は、新種のモンスターの調査クエストだったはずだけど……?

 それはまだ済んでいない。

 僕は最初から、このクエストは難しすぎると反対したんだ。


「そうだよ。ここに来た目的はもう済んだ。お前を捨てるっていう目的はなぁ!」


 ガイアが歯をむき出しにして、僕にそう言った。

 ひどい……!

 初めから、僕をハメるつもりでここまで連れてきたんだ。


「アイテムボックスを使えるヤツはこの世に一人でいい。その方が価値が高いからなぁ。それに、お前はずっと目障りだった。スキルのためとはいえ、いっしょにいるのは本当に苦痛だったよ……」

「そ、そんな……!」


 ガイアは、僕のことをそんな風に思っていたのか……。

 だからといって、僕を迷宮に置き去りにして殺そうだなんて……!


「い、嫌だ……! 僕は死にたくない……!」


 こんなところに連れてこられて、置き去りなんてごめんだ。

 僕にはまだまだ、いろんなやりたいことがあるのに!


「ったく、ギャアギャアうるせえんだよ!!!!」


 突然、ダンが僕のことを持ち上げた。

 屈強な大男のダンに、ひ弱なヒーラーの僕は簡単に持ち上げられてしまう。

 だが、僕を持ち上げてどうする気だ……!?


「おいガイア……こいつ、殺してもいいんだよな?」

「ああ、構わない……」


 ダンは僕を持ち上げたまま、ある場所に向かって歩いていく。


「くそ……! なにするんだよ! はなせ!」


 ダンは僕をダンジョン内のある場所まで連れてきた。

 そこは――亀裂。

 ダンジョン内の床に大きく開いた穴。

 その先は真っ暗で、落ちたらなにがあるかわからない。


「じゃあな、弱虫無能のゴミクズ荷物持ち」


 ダンは僕を、そこへ投げ入れた。


「うわあああああああああああ!!!!」


 僕は奈落へ、落ちていく――。


 ああ、信じた僕が馬鹿だった――。


 最初から、僕に仲間などいなかったのだ――。




――――――――――――――――――


【★あとがき★】


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