第2話 白銀の死神
「うわああああああああ!!!!」
僕はどんどん奈落の底へと落ちていく。
A級ダンジョン【
そこはまだ、人類が到達さえしていない未開の領域だという。
そんな場所に、僕は深く深く落ちていく。
「やばい死ぬ死ぬ死ぬ!!!!」
なんでこんなことで殺されなくちゃならないんだ!
僕の頭をいろんな思い出が駆け巡る。
後悔と怒り、そして恐れ…………。
いろんな感情が複雑に絡み合った。
「ダメだ! ぶつかる……!」
地面にぶつかりそうになって、僕は目を瞑った。
もう2階層分は落ちてきただろうか……。
だとするとここは第7層の地面ということになる。
あれ……?
僕はなんでそんなことを考えれるんだ……?
「おかしい……! 僕は……生きてる……!?」
地面にぶつかったと思っていたけど、どうやら無事らしい。
僕は……助かったのか……?
でも……どうして?
恐る恐る、目を開けてみ――。
「だ、大丈夫か……?」
「うわ……!?」
急に声をかけられて、驚いた。
だってここは第7階層――人類未到達の奥地。
そんなところに、僕以外に人なんかいるはずがない。
声の主を確認すると、そこにはとても綺麗な髪をした女性がいた。
顔は
どうして彼女はこんなところに一人でいるのだろうか……?
「あ、あなたは……?」
「私……そうだな【白銀の死神】とでもいえばいいだろうか……? とにかくそう呼ばれている」
「白銀の死神……!?」
有名冒険者にうとい僕でも、聞いたことがある。
ソロでS級まで登り詰めた、伝説の冒険者だ。
めったに人前に姿を見せず、どこでなにをしているのか謎の存在とされていたけど……。
まさかこんなところで会えるなんて……!
「あ、あの……! 助けてくれたんですか……!?」
「まあ……そうだな。君が落ちてきたから、とっさに受け止めた」
「すごい……! ありがとうございます! 死神さん!」
どうやって受け止めたのかはわからないけど……。
とにかく彼女には感謝の念が絶えないな。
ここでたまたま出会えなければ、僕は死んでいた。
「その……死神さんはやめてくれ……。白……シロでいいよ」
「あ、じゃあシロさん。シロさんはどうしてこんなところに……?」
「このダンジョンはかなり危険だからな……。普通の冒険者たちが来る前に、こうして敵を減らしているんだ」
「す、すごい……そんなことを……!」
いったい白銀の死神――シロさんはどれだけ強い人なのだろうか。
「というか……逆に聞くけど、君はなぜここに?」
「あ……僕は……その、パーティーに殺されかけました……」
なさけない話だけど、正直にそう話した。
「そうか……それは許せないな……。私が君を安全なとこまで送っていこう」
「え……!? いいんですか!?」
「まあ、ちょうど帰るところだったし……」
「ありがとうございます!」
シロさん、どんだけいい人なんだ……!
強くてかっこよくて、優しくて美しい。
僕はそんなシロさんに、早くも憧れ始めていた。
「くそ……この荷物どうしようかな……?」
「…………?」
シロさんの足元を見ると、そこには大量のドロップアイテムがあった。
どうやら集めるだけ集めたけど、持ちきれなくて持て余しているらしい。
「あの……シロさん! 僕が持ちますよ!」
「え……? で、でも……こんなに大量のアイテムをどうやって……」
「《アイテムボックス》!」
「あ、アイテムボックス……!?」
僕は自分のアイテムボックスに、それらのアイテムをしまった。
シロさんはすごく驚いた顔で、僕を見つめている。
「き、君……! 今何をしたの……!?」
「ああ、これは僕のユニークスキルですよ。それと、僕はゼンです」
「ぜ、ゼンくん! 君はとんでもなくすごいスキルを持ってるって自覚ある!?」
「え、まあ……便利なスキルだとは思いますけど……」
ガイアだって、僕を殺してまで手に入れようとしていたしね……。
自分でも便利すぎるスキルだって思ってる。
だけど、まさかあの白銀の死神にまで褒められるなんて……!
僕たちはその後、シロさんを先頭にどんどんダンジョンを帰っていった。
途中何度もモンスターに襲われるが、さすがはシロさんだ。
なんなく倒して、あっという間にダンジョンを脱出した。
まさか、あそこから生きて帰れるなんて……!
◇
街へ戻ってきて、シロさんは僕にこう言った。
「どうかな……その、これからも。私とたまにでいいから、クエストに同行してもらえないかな?」
「えぇ……!? 僕がですか!?」
まさかあの白銀の死神からパーティーに誘われるなんて……!
ずっとソロを貫いてきた、あの白銀の死神にだぞ!?
でも……いったいどうして。
「ゼンくん、君はすごいスキルを持っている。おかげでかなりのアイテムを持って帰ることができた。これは数週間分の収穫になるよ? いっきにあのダンジョンの調査が進んだんだ」
「はぁ……そうなんですか」
シロさんはとてもよろこんでくれているけど、僕にはいまいち凄さがわからない。
あのシロさんが誘うほどの理由なのかな……?
「それに……君はかなり戦闘の才能もあるよ」
「え!? 僕がですか!?」
まさか、あの白銀の死神が、戦闘面でも僕を褒めることがあるなんて。
あり得ない。
だって、僕はシロさんの後ろでびくびく隠れていただけだぞ?
MPも切れていたし、回復だってしていない。
「ああ、私が護っていたとはいえ、君の戦況把握能力は少し驚いたよ。常に周りをみて、安全な位置に立ちまわっている。まるで歴戦の戦士みたいに……! それは才能といってもいい!」
そうかなぁ……。
僕はただ、いつも通りに動いていただけだけど……。
だって、僕のヒールは少し特殊なのだ。
味方をいっぺんにヒールすることができないし、至近距離からでないとヒールすることができない。
だから、いつも戦場をちょこまかと動く必要がある。
「じゃあ、そういうことだから、またね」
「あ、はい! 今日はありがとうございました!」
シロさんはそれだけ言って、さっそうと去っていった。
ああ……かっこいいなぁ……。
僕も、いつかあんなふうに強くなりたい!
そして……ガイアたちを見返すんだ――!
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