ソシャゲを廃課金で成り上がる! 妹と作る、最強ギルド

スカイレイク

ギルド結成

「あ~……あの株は下がったかあ……」


 ピッピ


「こっちは良い感じじゃ無いですか?」


 ポチポチ


『やったー! 皆の勝利だよ!』


 二人の人間の声、一つの声優さんのボイスが一軒家に響いた。


 俺は現在株を取り引きしている、ありがたいことだが意外と経済が伸びているので現物の方も結構な金額に増えてきている。


 そしてそれで出来た余剰金を何に使っているかといえば……


『やりました! 大勝利です!』


『勝ったよ! ありがとー!』


「あ、お兄ちゃん、こっちはレアドロップでました」


「マジか、俺もクエストを回さないと……」


 ソシャゲだった。今更説明するまでもない、現代が生んだ闇のゲーム、課金すれば何処まででも強くなれる、そんな夢のような……夢が無いな……とにかくそんなゲームをプレイしていた。


 ピピピー


「ちっ……登校しないと……」


「くっ、このドロップでラストですね」


 俺たちは立派な……立派だろうか? とにかく高校二年生と一年生だ。学業をおろそかにすることは許されない。


「朝飯はどうする?」


「私はコイツで」


 我が妹はゼリードリンクをプチッと開けて飲み干した。俺は栄養食を飲む、病気の人などが飲むことが多い薬局で売っているアレだ。


 その後スポドリをグイッと飲んで口の中の甘ったるさを胃に落とし込む。


「行くか阿多利あたり!」


「はい!」


 俺たちはそうして家を出た。春の日差しは暖かで眩しい。先ほどまで連休でクエスト集会していた俺たちには明るさが強すぎる。


 小さな身体の妹が跳ねるように進んでいく。俺はその理由が学校に行けるからではなく、先ほど引いたガチャでSSRが出たからということを知っている。音量を消さずにガチャを引くので大変うるさい。


「歩きスマホはどうかと思うぞ?」


 楽しそうに歩いているがサイレントモードでガチャを回しているのが見えたので注意しておく。うららかな風が吹くなか、生暖かい空気の中を学校に向かっていく。休み明けはいつも悲しい。それは俺に限ったことでは無いだろう。


「ふぁあああ……」


 夜遅くまでクエストを自動周回してスタミナが尽きたところで寝たのだが、昨日はちょうどレベルアップが重なったせいで非常に眠い。レベルアップでスタミナが全快するのは確かに良いことではあるのだが……


「ちょっとあなた……」


 益体もないことを考えていたせいで話しかけられていると妄想が発生してしまった。


「歩きスマホはやめなさい」


 そこで俺に話しかけられたことに気がついた。


「阿多利、ガチャは引き終わったんだろう? スマホはしまっておけ」


「はぁい」


 やる気も無さそうにアプリを閉じて歩き出す。そこで追加の声がかかった。


「あなた達、そのゲームプレイしているの?」


 そこで俺に話しかけている人をよく見た、鞄の色で分かるのだが上級生だった。


「すいませんね、先輩」


「いえ、別に謝る必要は無いのだけれど……それよりあなたもそのゲームをプレイしているの?」


「え、ええまあ……」


「私もやってますよ」


 阿多利も話題に入ってくる。


「あなた、ゲーム画面をちょっと見せてくれない?」


「え……?」


「だから、ゲーム画面を見せてと言っているのだけど」


「は、はあ」


 俺はスマホを取り出してゲームを起動する。


『レジェンドオブプロバビリティにようこそ!』


 そう、ソシャゲのタイトルが再生された。ついついサイレントモードにするのを忘れていた。


「これでいいですか?」


「やっぱりLoPなのね……ホーム画面も見せてくれるかしら」


「構いませんけど……」


 タイトルから一回タップするとホーム画面に遷移する。お気に入りのキャラクターが『お帰りなさい! マスター』とボイスを出してきた。


 その画面をじーっと見た後で俺に話しかけてくる。


「あなた、クラスは?」


「二組ですけど……?」


「そう、わかったわ、歩きスマホは程々にしておきなさいね」


「はい」


 そう言ってさっさと去って行く、さすがに阿多利もスマホをスリープさせて鞄にしまっていた。


「お兄ちゃん、あの人は誰ですか?」


「さあ? マナーが云々という物好きじゃないか?」


「そうですか、じゃあ周回の続きを……」


「それはやめておけ」


 俺はキツネにつままれたような感覚で学校に向かった。


「ねえ稗田? なんでさっき石動いするぎ先輩と話してたの?」


 横にいつの間にか合流した幼馴染みのよしみことが話しかけてきた。気配も無く近づくのはやめて欲しいものだが……いつものことか。


「石動先輩って?」


「さっきの人よ、あなたあの先輩と関わりなんてあったの?」


「いいや全然、というか歩きスマホを注意されただけだし」


 命はため息を一つついてから俺に語る。


「あの人、生徒会長候補だったのよ? 有名人なんだからもうちょっと緊張とかしないものなの?」


「そんな後出しで出された情報で緊張とかしようが無いだろ」


 そんなやりとりをしている間に予鈴が鳴ったので校門をくぐる。


「セーフですね!」


 阿多利が楽しそうにそういう、ガチャが当たったのでよほど嬉しかったらしい。


「お前のせいで先輩に睨まれたんだぞ……?」


「さあて何のことでしょうね? じゃあ私は一年の教室に行きますのでまた今度」


「あっ! ちょ!?」


 脱兎のごとく走って行った阿多利、廊下を走らないとは壁に貼られていないのだが常識だと思うぞ。


 俺は午前の授業を受けながら、休み時間の合間に株価のチェックをする。売っておいた方が良さそうな証券を売り払って買い注文を仕込んでおく。


 スマホで取り引きが出来るのは本当に便利だった。幸いなことに何も株価が大きく動く自然現象や政治の問題も無く、平坦に近い経済成長をしているので配当でも割と大きめのお金になる。


 そうして午前の場が終わってから昼休みに入った。余り頻繁に取り引きするのは死亡フラグなのでスマホを取り出してLoPをプレイする。含み益で十連くらい回せそうだったが後場があるので軽くクエストをスキップポーションで周回しておく。お昼にログインするというログボも無事もらっておいた。


 十二時半から後場が始まるので事件が起きていないかニュースを見ていた。今日も何事も無く終わる……はずだった。


「アレがお兄ちゃんです」


 教室のドア前には阿多利と石動先輩が立っていた。先輩は俺の方につかつかと歩み寄ってきてから俺に話しかけた。


「ねえあなた、私の仲間になる気はない?」


「仲間?」


「そう、ギルドよ」


 何のことを行っているのかよく分からない、ギルド? 異世界の話か?


「ええっと……どういう意味ですか?」


「妹さんの言うとおり察しが悪いですね、これですよ」


 そう言って差し出してきたスマホには見慣れたゲーム画面が表示されていた。


「LoP……」


 そういえばこのゲーム、ギルド機能が実装されていたな。大縄飛びシステムだと聞いたので必須ではないので参加していなかったが。


「そう、まあ……ここは場所が悪いわね、場所を変えましょうか」


 クラス中の注目を浴びているのに気がついたらしく、俺の手を引っ張って廊下に出てから階段の踊り場で話すことになった。


「いい、私はギルドである『一枚の金貨』を結成しているの、あなたもその中に入らないって聞いてるの」


「ギルドかぁ……貢献度とかで結構序列が出来るらしいので俺はパスです」


「あら、本当にいいの? 妹さんは二つ返事で入ったわよ?」


 俺は阿多利の方へ視線をやるとプイッとそっぽを向いた。どうやら本当に参加したようだ。


「ギルドに入って何かメリットってありましたっけ?」


「ギルド専用クエストが受けられるわ、そしてそれに順位がつくの。そして私は割と真面目にトップを狙ってるわ」


「トップ……」


 気の遠くなるような課金額をつぎ込んでようやく一ランク上がる程度のゲームでトップを目指すとなるといくら金がかかるか分からない。おっかない話だ。


「お兄ちゃん! 私たちならテッペンを取れると思うんですよ! 参加しましょうよ!」


「ギルドの面子は他にいるんですか? 三人じゃ余りにも弱いですよ?」


 いくら課金で差を埋められるとは言え三人で課金できる額には限りがある。無茶な勝負はやめた方が良い。


「安心して、まだ一年にとんでもない逸材がいるわ」


「一年って……課金がそんなに出来るんですか?」


「年齢と課金額が比例しないことはあなただって知ってるでしょう? それに私はあなたがもっとガチャを引けることを知っていますよ」


 俺も廃課金勢ではないので余り課金はしていない、気に入ったキャラ実装されたときに出るまで回すくらいだ。それでも五、六十連も回せばたいていの場合ピックアップは引ける。


「あの……先輩?」


 後ろから声がかかった。その声は聞き覚えのある……


「命?」


「あー……ごめんね、聞く気は無かったんだけど聞きやすいところで話してたからさ……三人ともLoPやってるんだ……」


 先輩は楽しそうに命に話しかける。


「その様子だとあなたもプレイしているようね?」


「なんで分かるんですか?」


「どのソシャゲだってギルドみたいな内容の実装やガチャはあるけど真っ先にLoPがでてきたあたりかなりの廃人だなって思ってね」


「くぅ……」


「それで、あなたも参加したいのかしら?」


「私は……」


「思う存分ガチャの内容やレイドボスについてなんかを話し合えるのよ? いままで一人でやってたのでしょう? 楽しいわよ?」


「はあ……分かりましたよ、参加します」


「じゃあ後は稗田くんだけね」


 再び俺に視線が集まる。全員の視線が無言の圧力を加えてくるので俺は仕方なく頷いた。


「分かりました、参加します」


 こうしてギルド『一枚の金貨』は結成されたのだった。あと一人いるらしいが誰なんだろうな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る