幕間~夏休みまで~

「ふおおおお!!! 爆上げ来た! これは勝つる!」


「お兄ちゃん、うるさいですよ。トレードならスマホじゃなくPCでやってくれませんか?」


「だってお前、俺が部屋にこもってたらこの前文句を言いに来たじゃん」


 俺がアメリカの相場に熱心になっているところに踏み込まれて恥をさらすのはもうゴメンだ。


「大人しくデイリーボーナスで稼ぎましょうよ? 無理して課金額を増やすのは良くないですよ」


「俺が稼がないとお前も課金が出来ないんだぞ?」


 が困ったようにため息をついた。


「私も課金はしたいですけどねえ……この前のアーティファクトで夏休みイベントは戦えるんじゃないですか?」


 考えの甘い妹をただしてやらねばなるまい。


「ソシャゲの運営なんて日々課金額をどうやって増やすか考えてばかりなのに強武器をずっと使えるままにしておくはずがないだろう? 耐性持ちの投入かナーフが入るぞ、まず間違いなくな……」


 日夜集金に明け暮れている運営がぶっ壊れをイベント中だけ使えるようにして終わったらナーフしたり耐性持ちを大量にぶち込むのが日常茶飯事だ。課金用のお金はあるにこしたことはない。


 まあ……贅沢を言えば律子ちゃんの実家の太さが羨ましいって所くらいだろう。生活費は仕送りが親から届くが、課金用の金は俺が調達している。バイトもやってみようかと思ったが効率悪さと拘束時間の長さに諦めている。


「お兄ちゃんももうちょっと私に構ってくれても良いんですよ?」


 情報集めも一段落ついたので俺も食事にしようか。


「最近どうだ? ガチャの調子は良いか?」


「可愛い妹との会話が初手でガチャの話題なのはどうかと思いますよ?」


「質問に質問で返すのはどうかと思うぞ」


 阿多利はやれやれと首を振った。


「お兄ちゃんは私がいないとダメですねえ……」


 そうして俺たちは着々と夏休みイベントへの準備を整えていった。


 先輩の場合


 シャキーン


 見慣れたガチャの最高レア演出が出ます。もちろん排出されたのは最高レアのキャラクター、レベリングの方はここまで簡単にはいきませんが強キャラを持っていれば大抵のことはどうにかなるものです。


「よろしくね、マスター!」


 聞き飽きたボイス付キャラの声が響きました。私は体レアリティのキャラを愛でてみたいなどと思っています。弱い子をかばうってなんだかロマンがあると思うのですが……


「このスペックなら独り立ちできそうですね」


 新しく手駒になったキャラは期待以上の働きをしてくれそうです。私は夏休みに向けてデイリーボーナスを稼いでおきました。


 そして本番に向けて粛々と強キャラたちを私は集めていきました。


 そうそうたる面子を見て私は負けることは無いと確信したのでした。


 命の場合


 かち……かちっ……


 私は目の前の自動車をうんざりしながら眺めました。通行量調査のバイト、やや熱いことはこの際良いのですが単調な作業に嫌気がさしていました。無心にカウンターを回しながらこの日のがちゃ結果について思いを馳せます。一日で十連回してお釣りが来るというのはやはり大きいお金です。このくらいは我慢するべきなのでしょう……それにしても……


「車……多いですねえ」


 私は目の前を走り去っていく自動車を眺めてまた一つカウンターを回したのでした。


 律子の場合


「ワクワクしますね……新生パーティーで無双するのはさぞ気持ちが良いことでしょう。楽しみですね……」


 ふふふ……先輩たちは面白い人たちです。あの人たちと全力を出して勝負するのならきっと楽しいことになるでしょうね……


 私は頬がつり上がるのを我慢できませんでした。

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