勝利、報酬、デスマーチ

 ゴールデンウィークも終盤にかかっていた時にそれは起こった、配布報酬の減少だ。


 なんと千位までが一区切りで上位報酬がもらえていたところ百位以内に報酬がもらえる順位が圧倒的に狭まってしまった。


 これには非難囂々であり、さすがの温厚なプレイヤーたちもブチ切れていた。


『報酬十分の一とかマジふざけんなよ!』


『これはクソ運営ですわ』


『昔の石をたくさん配っていた頃が懐かしい』


『集金モードはいったな、サ終の前触れかな?』


 散々な言われようだった。まあ報酬が十分の一に削られたのだから無理もない。


 俺はグループチャットにメッセージを流す。


「このイベントは諦めるか?」


「ここで上位に入ってこそ名前が売れるんですよ?」


「運営のやり方が気に食わないので一泡吹かせてやりましょう」


「キツいけどギリギリかなあ……」


「ぶっ潰すには余裕じゃない?」


 全員がここから勝負に出る気満々だった。しかしそこから驚くようなことが起きた。高順位のランカー達が露骨にやる気を無くして上位に食い込むハードルが結構に下がってしまった。俺たちでもギリギリ百位以内になれそうだった。


「これは……いけるか?」


「ラストスパートだね」


「運営にプレイヤーの力を見せつけてやりましょう」


「私でも少しは役に立つかも……」


「ここでいい成績を出せばお兄ちゃんがプリカを買ってくれるんで負けられないですね」


 みんなのスイッチが入り、徹底抗戦の姿勢を取ることが決定した。ゴールデンウィークはラスト二日。最終日は翌日が登校日なので実質今日の夜で勝負が決まると言っても過言ではなかった。


「今日は一日討伐クエストを回しててね? 紋章は全部ギルド経由で納品してね」


「おk」


「よゆー」


「頑張りますよー!」


「ボッコボコにしてやりましょう」


 こうして勝負は始まったのだった。コーヒーを淹れてがぶ飲みしながら飲み終わったらエナドリを追加、エナドリとコーヒーの無限ループで敵たちを叩き潰していった。


 深夜、ギルド別納品数をチェックすると九十九位とギリギリ報酬がもらえる圏内にいた。だからこそ油断してはならない。このギリギリのラインに入れるかどうかで皆必死になるからだ。一位を取っていたりすればどうやっても追いつけないからという理由でライバル視されない。他方ギリギリランクインしているくらいだとワンチャンあると思われて熾烈なレースになってしまう。


 チェックをして、順位を確認してこの順位なら問題無いだろうと思ったところで順位が変動した。


『一枚の金貨』のランクが九十九位から七十位にまで急上昇した。俺はわけが分からずにいるとグループチャットでメッセージが流れた。差出人はみこと


「私が集めてた紋章まとめて納品しておきました」


「でかした」


「これで勝てますね」


「さすがにこれに追いつく連中はいないでしょう」


「切り札は最後までとっておくものですね」


 俺たちはちまちま順位を上げていたのが一気に上位ランクになって負けることが無くなった安心感からまったりモードになった。


「いやー、命ちゃんも頼りになるねー」


「思わぬダークホースだったな」


「大人しい人ほどキレると怖いって感じでしょうか」


「私はキレたわけじゃないからね!?」


「まあまあ、これで入賞は確定ですから」


 翌日、九十位以下は争いになって順位がどんどん変動していったが俺たちは安全圏の七十位代なので余裕を持って過ごすことが出来た。


「いやあ『上から』見る光景は壮観ですね!」


「満足いってるところ悪いんだけどさ、私たちの目標はあくまでもテッペン、一位だからね? この順位は確かにそこそこ良いスコアだけどベストじゃないんだからね?」


「まあまあ、今勝ってるんだからいいじゃないか。明日は明日の風が吹くって言うし、今から八月の心配をしてもしょうがないだろう?」


「あながち悪くもないんじゃない? 今回の報酬は結構いい装備みたいだし次への布石になるでしょう?」


 そう、今回のイベントの報酬は強力な装備だ。夏にかけての戦いには心強い装備となってくれるだろう。


「じゃあ最終日、もうひと頑張りだよ!」


 石動いするぎ先輩の言葉に俺たちは勝利を確信した。最後の納品を終えて順位が八十位代に落ちたものの報酬はしっかりともらえる範囲内に留まることが出来た。


「勝ったな……」


「大勝利」


「ざぁこ、ざぁこ」


「余り煽らない方がいいですよ」


「今回の報酬はアーティファクト一式でしたよね? アレってかなり強いって噂ですよね」


「これで我がギルドもより一層の発展を告げるじゃろうて……」


「キャラ崩壊してますよ」


 大盛り上がりをして俺たちの勝利は確定したのだった。


 翌日、帰宅後すぐにプレゼントボックスからアーティファクト一式を取得して装備し、その辺のザコを蹂躙して楽しんだのは言うまでもない話だった。

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