上方修正(敵が)
『悪霊は呪法を使い自らを強化した』
翌日、ゲームを起動させるとそんなメッセージが出てきた。スコア一覧を見てみると昨日の深夜から唐突にスコアの伸びが落ちている。
「上方修正だな……」
敵が軽々倒されたときにはよくある敵キャラの上方修正だった。ただでさえ手強いのに、更に強化するなど迷惑極まりない。
俺はLoPのwikiを調べた、早速攻略法が掲載されており、幸い俺の手持ちのキャラだけでボス特攻の編成が組めるようだ。
ピコン
「ボスの上方修正来たよー、編成の変更よろしく!」
「おk」
「りょ」
「分かったわよ」
「きっついですねえ……」
みんな反応はそれぞれだが、上方修正と言うことは全プレイヤーに影響が出ると言うことだ。平等にプレイしている限り相手の方も上方修正の影響を受けるので特に『一枚の金貨』だけが極端に不利になるわけではない。
運営からすればオートでいくらでも回せる連中にランキングを独占されるのを防ぐためと言ったところだろうか?
残念ながらオート周回で倒せるパーティ構成は研究され一晩を待たずに最適な構成が見つかっていた。
ばったばったとボスキャラが蹂躙されていく。残酷にも一撃の下に沈んでいく。なんなら上方修正前の方が粘った感まである。とにかくそのくらい滅茶苦茶なゲームバランスを考えていない修正だった。
所謂『人権キャラ』を持っていれば楽勝なクエストになってしまった。人権キャラが期間限定キャラだったからと高をくくっていたのかもしれないが、そのキャラは人気の高い『シャルロッテ』の水着バージョンだった。胸の大きい彼女のイラストに大量のユーザーが課金をして大量に排出されたキャラだった。
運営は季節限定キャラをそんなに持っていないと思っていたのだろうか? それとも限定キャラで必勝法を編み出す人が出てこないだろうと思っていたのだろうか。
それでもシャルロッテ(水着)が期間限定キャラということで、持っていない人もいるようで多少ではあるが青天井に伸びていっていた討伐報酬の紋章は納品される勢いが明らかに減っていた。
そんなことを考えながら最適なパーティでオート周回をしているとsignalにメッセージが届いた。
「案外楽勝だったね」
「キャラをコンプしてるやつなどいないという運営の慢心が見て取れるような修正でしたね」
「私にはめっちゃキツいんですけど……」
「私はお兄ちゃんに買ってもらったプリカで出してたからセーフだったけどやたらとされると困る修正ですね……」
ルームにはあれやこれやといった愚痴や自慢などが書き込まれている。俺はセーフだったといっていい。
「今回の修正は格差を広げるな、プレイヤー人口が下手したら減るぞ」
「廃人ゲーだし今やってる人は辞められないんじゃない?」
「無理でしょ、今やってる人はそれなりに課金してるでしょ、今更やめない連中しかいないでしょ」
そんなやりとりをしながらサブのスマホはオート周回が進んでいく。ボスはバッタバッタと倒されていき、紋章も総計が100万の大台を超えた。ボスが強くなった代わりに報酬が増えたせいで格差がどんどん開いていた。
もうこのゲームをプレイしているのはすっかりエンドコンテンツ参加組くらいしか残っていなかった。僅かな新人はベテランからサポートキャラを呼んでクエストを進めていた。
「楽勝ですね」
「それが自分の収入で勝ち取った結果なら少しは感動的なんだろうけどなあ」
「兄のすねかじりですね」
「酷くない!?」
「まあ私は親のすねをかじっているわけですから、先輩もそんなに気にしなくていいですよ」
「かじれる量が桁違いだけどな……」
そんなメッセージをやりとりしながらオート周回はどんどん進んでいった。なんなら上方修正前より効率よく周回が出来ているような気がする。
「俺も結構スコアは高くなりそうだな、紋章の納品多少は貢献できそうやね」
「少しは頼りにしてますよ!
こうしてゴールデンウィークの中間は俺たちがそこそこのスコアを得てギルドとしては失敗ではない程度に上手くいっていた。
「この調子だとまた来るでしょうね……」
「また来るだろうな」
「来ますねえ」
「何がですか?」
「まだ何かあるの!?」
俺たちは揃って答えた。
「上方修正第二弾ですよ」
「もっかい上方修正が来るだろうな、さすがに特攻キャラのナーフはしないだろうが」
「どうせ攻略法が見つかるのは目に見えているのに、ご苦労なことですね」
そして俺たちのゴールデンウィークギルド対抗戦もそろそろ終盤を迎えようとしていた。
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