持つ者、持たざる者

 会議というのは得てして進まないものである。一般的に強権を振るう人は嫌われがちだが、こういった先の見えない会議ではそう言った特権を持った人がいないと議論が座礁しがちだ。


「私は石をそれなりに割っておくべきだと思うんだけどな」


 先輩は石を割ることをいとわない。ガチャの方はほとんど一発で引いているらしいので石は大量に余っているらしい。


「それはどうかと思いますね、夏休みの本番に備えておくべきでしょう。多分皆さん本気を出すので大量の石が必要ですよ?」


「私は配布のAPドリンクだけでいいかなあ……さすがにランカーには追いつけないわね」


 熱く語る先輩と後輩に対してみことは冷淡だった。どうやら上位陣の人生を賭けているかのような熱の入れように冷めてしまったらしい。それでもゲーム自体はやめないあたりがゲームに向いている性格だと言える。


石動いするぎ先輩、夏休みに備えて石は温存しておいた方が良くないですか?」


 俺がそう言うととんでもない答えが返ってきた。


「そーなんだけどねー……私はガチャにほとんど使わないから配布石が山のようにたまってるんだよねー、多分この石を全部夏休みにとって置いたとしてもスタミナ回復に使ったら二十四時間体制でクエストを回しても石が余っちゃうのよねえ」


 どんだけ持ってる人なんだ……運も石も大量に持っている。リアルラックでここまで無双できる人も珍しい。


「先輩、あんまり後輩たちにプレッシャーをかけるものじゃないですよ? 別に貴方が好きなだけ課金しても石を割っても構いませんが、人に押しつけるわけにはいかないんですよ」


 律子ちゃんから助け船が入った。この子はそれなりに凡人の俺たちに配慮してくれているようだ。


 そこで命が非廃人組の意見を述べた。


「私はクエストクリアが第一目標だね、そろそろクリアできそうですけど、討伐クエストをクリアできる気はしないんですよね……」


「まあ命ちゃんはそのくらいだよね、目標はボスの討伐を手動でいいからクリアできるのが貴方の目標ですね」


「そこから追いつこうと思ったら廃課金か貫徹しかないですね。健康に悪いのでお勧めはしませんが」


 律子の現実を指摘する意見に対して反論は来なかった。課金すれば何処までも強くなれるゲームだが、時間という差はいかんともしがたい。季節限定の非恒常ガチャからしか引けないキャラはタイミングを合わせないとどうやっても手に入らない。


「ちなみに私は石を割りながらマラソンをしています。結構どうとでもなりますがね。資本主義って素敵ですよね?」


「私は石は割れませんね、慎重に溜めておかないとガチャがありますからね」


 阿多利の言葉に先輩が反応した。


「阿多利ちゃん、ちょっとスマホを貸してもらえる?」


「え、ええ……」


 ガシャン


 ガチャを引く音と共に最高レア演出が発生し、狙い通りのキャラが排出された。


「それでかなり石は節約できたよね?」


 妹はなんだか不満げだ。兄妹だから分かる勘というやつだろうか、世の中の理不尽に憤っているような空気を醸し出している。


「確かに目的のキャラを引いたのはいいんですけど情緒のじょの字もないですね」


 ガチャ爆死という概念を知らない先輩には届かない言葉だった。


「そうかな? 一発で手に入るならそれにこしたことはないと思うんですが」


「ドキドキ感とか、思いがけないキャラが排出されるとか意外な出会いがあるでしょうが……」


 阿多利はガチャ肯定派だった。ガチャもいいがスタミナに石を割るのも有意義だとは思う。確かに天性の運で確立を操るごとく狙い目を一発で出せる先輩はすごい、だとしてもそれではガチャの意味がないではないかと言うのが妹の意見だった。


「まあこれで今回のイベント周回くらいは出来そうですね……」


 育成アイテムはログボで大量に集まっている。凸素材もたっぷりと今までのガチャではずれたときに素材が排出されている。確かにそれを考えればガチャで目的以外が出ることにも意味があるといえる。


「じゃあ私はこれを育成してカンストさせておきますね」


 阿多利の困りごとは解決した。あとの問題は命だろう。


 命の方は戦力と見なさなければ何の問題も無い、しかし夏休みまでには僅かなりにも戦力になっていて欲しい。


「命ちゃんの方はキツいねー……キャラは私の運命力でなんとかなるにしても凸素材と育成アイテムは課金くらいしか無いですねえ……」


 命は露骨に嫌な顔をした。


「私はあんまり課金をしたくないんですがね……無償石がたまってるので先輩、ガチャを引いてもらえますか?」


「任せてよ!」


 石の半分を使ってガチャを回す、最高レアが大量に排出された。十連で三枚も最高レアが出るガチャなんて見たことがなかった。


「まあ必要なのはこの辺かなー……あとは育成の問題かな」


「まあ夏休みまでに育てておきます。今回は余り戦力になれませんね、ごめんなさい」


「構いませんよ、私と律子ちゃんが四人分の働きをして阿多利あたりちゃんと稗田ひいたくんが二人分の働きをすれば勝負になりそうですしね」


「俺も随分と期待されてますね」


「私も寝食を削るのですか…… 」


 俺たちのストロングスタイルには体力と精神力が必要だった。勝負としては分が悪いとしかいいようがない。


 そこで先輩がフォローをした。


「本番じゃないからねー? あなたたち兄妹は普通の戦力でいいよ、私と律子ちゃんが頑張るから安心してね!」


 全く安心できない言葉だった。二人が八面六臂の活躍をしていることはスコアからよく分かった。


「じゃあ本日のミーティングは終わり! 兄妹は人並みに周回、命ちゃんは戦力強化、私たちが討伐報酬を稼ぐと言うことでいいですね。ああ、稗田くんは割と紋章集めてるみたいだからギルドに納めておいてね?」


「分かりました」


 これで今日のミーティングは終わった。しかしその先に待つ壁について俺たちはまだ知らなかった。

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