決戦

 俺はイベント開始まで相場に張り付いて石を買うための資金集めに走っていた。幸いそれなりにお金が貯まったので余剰金をある程度石にして、プリカを数枚買える程度の金額を阿多利あたりに渡しておいた。ニコニコ顔だったのが忘れられない。


 そうしてそれぞれの環境を整えつつイベントという熱い戦いがいよいよ始まろうとしている。


 十二時にアラームをかけ、スマホの前で待機している。以前使っていたスマホでLoPをいつでも起動できる状態にしておいて現在使っているスマホにはチャット画面を開いておいた。


『あと一分』


『いよいよです』


『私たちに負けは無いでしょう」


 そんな文字が流れながら、いよいよ十二時になってメンテが明けたので即ログインボタンを押した。シングルサインオンでログインすると多少重いながらもゲームが無事起動した。


 でかでかと『夏休み水着キャンペーン』と表示され、メインキャラたちの水着バージョンが大々的に宣伝が入る。おそらく今回のイベントで特攻を持つキャラなのだろう。


『とりあえず水着キャラコンプしたわ』


 先輩の運の良さには恐れ入る。まだイベントが始まって十分なのにもうすでにガチャでのピックアップを全部集めたと言うことだ、確率を計算すると恐ろしい値になる。


「先輩はやっぱり運が良いですね……」


「いいどころじゃないだろ……人間業じゃない」


『私も百連したら揃いましたね、割と簡単でした』


 廃課金プレイヤーの律子ちゃんが物量でゴリ押して水着キャラをゲットしていた。


『水着キャラって今回のイベントの人権ですか?』


『やや有利くらいですね、先輩なら水着目当てにガチャを回すより石を割るのはスタミナ回復に使った方が効率がいいですよ』


「よっしゃあああ!! 水着ゲット!」


 隣で阿多利がピックアップを引いて歓喜の声を上げている。俺の方は三十連で引くことが出来た。


『準備はいいわね、それじゃクエストを回しましょう!』


 そして周回は始まった。お盆と言うことで幽霊がボスだ。闇属性なので光パで組むのが最適解になる阿多利の推測が正解だったと言うことだ。


「ヒャッハー! 消し飛ぶがいいんです!」


 ガンガンと光属性の魔法で次から次へと幽霊を吹き飛ばしていく。幸いボス戦もオート周回が可能な有利属性だった。


「亡霊ごときが人間様にたてつこうなんて身の程を知りなさい!」


『いやー、阿多利ちゃんの推測が当たってたね』


『私の逆張りは外れでしたか……」


『これは先輩も石を割らなくても勝てそうですね』


 こうして周回は順調に進んでいった、しかしスタミナ制のサガとも言えるスタミナ切れがやってきた。


『みんなー! スタミナは大丈夫かな?』


『私はそろそろドリンク使います』


『俺はあと十試合くらいはドリンク無しでいけますね』


『私はもう使ってるわ』


『まだ石は割ってないですけどスタミナは結構使ってますね……』


 そうして数戦をこなしたところでレベルが上がった。そこでスタミナが全回復したのでしばらくはドリンク不要だった。


 よし、何も、問題は無い。


 死闘は夜になってから始まった。ドリンクを消費しながら眠い目をこすりつつボスが出現した。オート周回でも問題無く倒せる闇属性のボスだった。


 オートではAPドリンクを使用できないのでスタミナが尽きる度に回復は手動で行う必要がある。


『みんな! ここからが本当の勝負だよ!』


『眠い……』


『エナドリ飲んで戦おうよ!』


『スマホがアツアツになってきました』


『モバイルファンを用意してないの?』


 いや、そんなもの普通は持っていないでしょう……


『ドリンク尽きた……』


 一番早く回復ドリンクが尽きたのはみことだった。レベルからしてスタミナの最大値が低いので初めに切れるならコイツだなと予想がついていた。


『石はある? 出来れば割ってクエスト回してちょうだい』


 先輩は何処までも鬼畜だった。LoPのプレイヤーは全員どこか脳が壊れているという説まで出てくるほどの廃人ゲーなので石を割るのはしょうがないことだった。


『石追加!』


 律子ちゃんは一切遠慮することなく戦い続けていた。石が大量にある先輩と後輩は問題無くクエストを回せるだろう。


 幾日も、寝る間も惜しんで俺たちは戦い続けた。その結果……

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