それぞれのプレイスタイル

 放課後、校門の前で俺たちは面子が集まるのを待っていた。平たく言えばソシャゲに入れ込んでいるダメ人間達の集団だ。


 俺と阿多利あたりみこと石動いするぎ先輩が最後の一人を待っていた。よほどの大物らしいがどんな人が来るのだろうか? やはり金持ちオーラを出した人が来るのだろうか?


「あ、きたきた! りつ! この三人がギルメンだよ!」


 少女は中学生と言っても差し支えなさそうな小柄な身体をしていた。


「ああ、ちゃんと真面目に集めてくれたんですね、では食事でもしながら方針の解説を……」


「おっと、律子、私たちは高校生なんだからそんな高級店はダメよ、精々ファミレスね?」


 律子と呼ばれた少女はキョトンとしてから頷いた。


「ああ、そういえば皆さんデビットカードとか持ってないんでしたね」


「デビットカードなら俺も持ってますよ?」


 俺の課金ソースは主にそこからだ。阿多利には余剰金を渡しているがカードを買ってきて利用している。


「あら、あなたもお金には困ってないようね?」


「私も困ってないんだよ! 無課金でも一発で引けるからね!」


 先輩がとんでもないことを言い放った。


「嘘でしょう……そんな課金無しの無料石を使って一発で引けるなんて……」


「本当ですよ、私はガチャで外すことはないですから」


 くっ……この場にいる全員の表情が固まる。ピックアップを一発で引く力、祈祷力か運命力が強すぎる……


「で、律子ちゃんだったか、君は課金をしているのか?」


「もちろん全キャラコンプしていますよ」


 何でもないことのように言った。あのキャラ数で高レアリティが1パーセントという低い確率のなかを全て引いたというのか……


「ちなみに君たちにも運命力があるのか?」


「私は課金ですね、さすがに律子ちゃんほど課金できるカードはもって無いけどね。コンビニでプリカ買って課金してるわ、ちなみにあなたたちは?」


 王道の課金方法を解説する阿多利、基本的には魔法のカードが基本だ。


「俺は証券用の口座のデビットカードですね、配当や値上がりがあったときとかに課金してますね」


「ちなみに私はお兄ちゃんにもらったお金で課金してます!」


「ヒモね」


「ヒモですね」


「まごうことなきヒモね」


 阿多利あたりはこめかみをピクピクさせながら反論する。


「いいじゃないですか! 兄妹なんですから兄が妹を甘やかしてもいいでしょう!」


「ダメ人間の思考法ね……」


 みんなが呆れながらそう言いつつ、俺たちは目的のファミレスに着いた。


「私はパフェとドリンクバーかな、みんなは何にする?」


「俺はケーキとドリンクバー」


「私はチーズケーキとドリンクバー」


「私はドリンクバーだけで」


 そして最後に律子ちゃんが注文を言った。


「パフェとケーキとチーズケーキ、あとドリンクバーが五つ、それとフライドポテトを」


「石動先輩はカロリーとか気にしないんですか?」


 俺のささやかな質問は空を切った。


「私ねー脂肪分が胸に行くみたいでねえ……もうちょっと痩せたいんだけど」


 ピキピキ


 二人ほど今の発言にイラついていた音が聞こえた。命は『羨ましいですねー』と心底どうでも良さそうに言っていた。


「まあ無駄な脂肪の行き先はさておき、あなたたちのクエスト進捗について聞いておくわ。もちろんエンドコンテンツまで回してるのでしょうけど」


「俺はハードモードまで全クリしてます」


「私はノーマルまでですねー……ガチャを引く方が楽しいので……」


「私はクリア済みですね、律子ちゃんと私は全クリ組みたいね」


「私はラストダンジョンをクリアできそうな所……」


 言いにくそうに命がそう言った。最終ダンジョン『終焉の墓場』は難関ダンジョンと名高いが、特攻キャラを持っていて、十分に育成しておけば楽勝できるダンジョンだ。


「あそこかー……ちょっと編成を見せてくれる?」


 石動先輩がそう言ってスマホを見せてもらう。責めるわけではないがやはりエンドコンテンツまでは回しておいた方がいいだろう。


 少し操作してから先輩は一言聞いた。


「私がガチャを一回回していい?」


「え……?」


「ここの特攻キャラを持ってると全然違うからねー、編成画面見たけどもってないみたいだし」


「そりゃああのキャラは持ってないですけど……一回で引けるわけが……」


「まあまあ、見ててね」


 先輩はスマホをテーブルに置いてガチャの画面を開く、手を合わせてから『一回引く』ボタンを押した。七色の光が出て最高レア演出であることが分かる。


『やあ、僕を呼び出したのは君たちかい?』


 ラストダンジョンに特攻のキャラが出てきた、この人は運命力が強すぎる。


「ギルマスは相変わらず引きがいいですね……」


 恨めしそうに律子ちゃんが言う。どうやら石動先輩がギルマスのようだ。しかし運命力の強さでここまでのし上がるとは……


「ギルマスはどんな星の下に生まれたんですか……普通ピックアップだからって一発で引くなんて無理ですよ……」


「うーん……こうね、ピーンてくるんだよね、あ、これいけるってタイミングがさ。そこで引くと不思議と当たるんだよねえ……」


 どうやら石動先輩は持ってる人間らしい。占い師の方が向いているのじゃないだろうかとか、ニマニマ動画にRTA動画をあげたら再生数が伸びるのじゃないかなとかくだらないことを考えてしまう。乱数調整を人間がやるなんて聞いたこともないが出来る人は出来るのだろう。


「じゃあ命ちゃん、育成アイテムはあるでしょ? それをこの子に注ぎ込んでカンストさせれば『終焉の墓場』はボスまで余裕だから」


 ポカンとしながら命はスマホを受け取る。そりゃそうだ、俺だって意味が分からない光景を見せられたのだからな。


 そんなことをしながらワイワイとファミレスで盛り上がったのだった。ドリンクバーだけで居座る俺たちが大変迷惑だろうなと思っていたら後ろの席でネットワークビジネスの勧誘が始まって、そちらが地獄の様相を呈してきたので俺たちはこれといって責められることは無かったのだった。


「じゃあそろそろ解散しよっか、命ちゃんは『終焉の墓場』クリアできた?」


「ちょっと待ってください、ラスト一発をたたき込むところです。ここで必殺技を打ち込んで……よし!」


「倒したねえ……じゃあ後はシナリオを読むだけだね、じゃあ解散!」


「その前に……」


 律子ちゃんがスマホをそっと差し出す。


「signalでグループを作るから電話番号教えて」


「LINEじゃダメなの?」


「目立つのは……だめ……」


 俺たちはsignalをインストールして電話番号を伝えてグループを作った。ギルド『一枚の金貨』の結成式はこうしてファミレスでささやかに開かれたのだった。


 律子ちゃんによると他のギルドにはTelegramでグループを作って毎回解散している人たちもいるらしい。とにかく情報アドが最優先とのことだった。


「じゃあ目標はゴールデンウィークのイベントね! みんなエンドコンテンツ自動周回できる程度には強くなっておいてね!」


 そう先輩が宣言して俺たちは散り散りに去って行った。


「お兄ちゃん、ワクワクしますね!」


 楽しそうにそう言う阿多利、俺からすればガチ勢とエンジョイ勢を混ぜるのはよくないのではないだろうかとぼんやりと思った。


 その夜、命から『エンドコンテンツまで行った! これで勝つる!』とメッセージが送られてきたのだった。


 余談だがこのLoPにおいて一番大事なのは運である。キャラクターを最強まで育成して、専用武器を最大まで鍛えて戦略を組んでもクリティカルが出ることを祈ることしか出来ないボスとかがいた。さすがに運営も反省したのか最善を期せばクリアは安定して出来る程度になったのだが。


 閑話休題。


 俺は現在の春のお花見イベントの周回方法を伝えてスマホをスリープさせて寝ることにした。

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