第8話 「やっぱり肩書きって大事だね。ただの少女よりは現役女子中学生って響きもいいし」
鎗水穗乃華は幼馴染みで親友の東堂葵と共にアイドルをしていた。
アイドルになるきっかけは、穗乃華が気紛れで新世代のアイドル募集へと応募した事だった。
あくまで気紛れ。テレビでやっていた番組の最後に募集要項が出てきて、本気で受かるなんて微塵も思ってはいなく、ただなんとなく応募しただけ。
2人とも応募した事なんて忘れて二ヶ月ほど経った時、穗乃華と葵は書類審査に通った通知が来た。その後の面接もクリアした2人は、芸能プロダクション「ハーロック」に所属することになる。
芸能プロダクション「ハーロック」は中堅よりもそこそこ上に位置しており、ドラマやゴールデンタイムのバラエティーには所属しているアイドルや芸能人を多数出演させている。
2人は合格したからにはと、レッスン等も厳しかったが、それなりに楽しく学べることも多々あり充実した日々を送っていた。
運命の分かれ道があったとすれば、「ハーロック」に所属して半年ほど経った時。
「ハーロック」の社長、尾居俊晃(オイトシアキ)に接待に誘われた事だ。
「接待。接待ねぇ。それってアレだったりする? 枕営業的な感じの?」
「――はい」
穗乃華は頷いた。
「ハーロック」において営業はテレビ局の偉い手や企業の社長たち等にするものだとすれば、接待の方は政治家或いは官僚向けであった。
穗乃華と葵は、名前も知らない政治家達の接待に使われ初めてを奪われた。
「やっぱり肩書きって大事だね。ただの少女よりは現役女子中学生って響きもいいし、更にアイドルって付いて、更に初モノとなれば――。ああ、その政治家達が羨まいなぁ」
クズ発言をする輝夜は置いておく。
穗乃華は性に対してはドライであった。特に好きな人に初めてを捧げたいとか、そんな事は思ってはいなかったし、その時も、破瓜のために痛みを感じただけ。相手の身元先が893や半グレと違い、きちんとしている援助交際みたいなモノだと割り切った。
そう。穗乃華は割り切ることが出来た。
ただし――――。
「葵は。葵は割り切れなかったんです」
現役女子中学生でアイドルで幼馴染みで親友同士。
政治家達とただセックスをするだけではなく、親友同士でのレズセックス、SMプレイ、四つん這いになり親友同士ディープキスをしながら互いに犯されたりもした。
穗乃華が気紛れで応募したアイドル募集で、ほぼほぼ付き添いのような形で、芸能界に踏み入れた葵であったが、芸能界に入ってからは穗乃華以上に頑張り、そして輝いていた。
そして接待という芸能界の闇の部分を、自身の身体で味わった葵は、そこから少しずつ壊れていくことになる。
「――私は。気がついてたんです。葵が変になっていくのを。でも、気づかない振りをして、葵に目を向けようとしなかった」
そこには少しばかりの嫉妬、或いは妬みもあったのかもしれない。
アイドルとしては誰が見ても穗乃華よりも葵の方が優秀であった。
接待を始めてから以前のような輝きが無くなっていく葵を見て、穗乃華の心に全くネガティブな思考がなかったと言えば嘘になる。
穗乃華はきちんと葵を見ていなかった。
だからだろう。穗乃華は、葵がどれほど追い詰められているか、想像もできていなかったのである。
『……穗乃華。ううん、ほのちゃん。もう、私、無理だよ』
会社が借りているマンションに帰り、リビングで冷蔵庫に入れているミネラル水を飲んでいると、シェアルームしている葵が現れてそう言った。
『え。何が、無理なの』
『もう、全部が無理なんだよぉ。お父さんと同じぐらいの人に犯されたくない。それに、親友のほのちゃんとのセックスを、見世物みたいに晒したくない!!』
葵は大粒の涙を流しながら、穗乃華に向けて言った。
『葵……?』
『今から警察に行って、接待の事も洗い浚い喋って――もう終わらせる』
『待って! 待ってよっ。葵。どうしたの。警察に行ったら、捜査されて、私達はもうアイドルを続けられなくなるしれないんだよ』
『私はッ。私は接待とか、枕営業してまで、アイドルを続けたいなんて、思わない! それに、ほのちゃんが犯される姿を、もう、私は見たく――――ッッ――――』
異変は突如とした起こった。
黒い蛇が葵に絡みついたのである。実体はなく、靄のような蛇。
最近、様子がおかしい葵に対して、妙な行動を起こした際に発動するように七が仕掛けていた呪いが発動したのである。
絡まり絞め付ける黒い蛇を見た穗乃華は、一瞬だけ呆けたものの慌てて黒い蛇を葵から引き剥がそうとするものの、相手は咒で出来た実体のない蛇。掴むことは出来なかった。
穗乃華が必至で剥がそうとしていると、咒で出来た黒い蛇は分裂した。
一匹は葵に絡みつき絞め付け、一匹は穗乃華の口から中に這入った。
異物が口内から侵入した違和感に膝をついた穗乃華は、咳き込みながらもなんとか穗乃華に手を伸ばす。
しかし穗乃華の手は葵に二度と届くことは無かった。
黒い蛇に絡まり絞め付けられている葵は、まるで操られているかのように、フラつきながらもベランダへと向かい、そして柵を乗り越え、地面へと向けて落下した。
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