第4話 「時価。私の気分次第のプライス価格となってます」


 ファミリーレストラン「コロンブス」

 全国チェーンのファミリーレストランで、万事屋「アンダーテイカー」がある路地裏から表通りに出て歩いて10分ほど歩いた所にある。

 リーズナブルな値段とメニューも豊富で色々ある事から、老若男女問わずに人気のファミリーレストランだ。


 時間は夕方。

 空は茜色に染まり始めた時刻。


 窓際のテーブル席に輝夜と穗乃華は対面で座っていた。

 穗乃華の前にはシーフードサラダとドリンクバーから取って来た烏龍茶が、輝夜の前にはリブロールステーキ(200g)にハンバーグ3個にエビフライ5本とご飯大盛りが置かれている。


「……食べますね」

「奢りだもの。私は奢られる立場になったら、遠慮せずに食べるようにしてるんだ!」


 因みに穗乃華は中学2年生だ。

 20代後半の女性が、中学2年生に遠慮無く奢らせる様子は、人としてダメだと思う。


「あ。勿論、遠慮はしてるよ? 大人なら回らない寿司とか食べ放題じゃ無い焼き肉を奢らせます」

「それって遠慮なんですか……?」

「遠慮だよ。それにさ。詛い祓いと身体検査の2つの作業料金を1万円以下の、ファミレスでの奢りで済ませてあげる私っていい人だよねぇ」

「……因みに、正規料金は?」

「時価。私の気分次第のプライス価格となってます」


 笑いながら答え、輝夜は箸を握ると、目の前にある物を豪快に食べ始める。


「あ、時は金なりって言葉もあるから、食事中に依頼内容を話して」

「――! ここで、ですか」

「うん。周りの事は気にしなくていいよ。私達の会話は、何気ない日常会話に聞こえるようにしてあるからさ」

「……分かり、ました」


 少しだけ考えたものの穗乃華は頷いた。

 僅かな間ではあるものの色々な超常現象を体験した穗乃華は、輝夜の言った事を信じる事にした。


「私、実はアイドル、なんです」

「ふーん、有名なの? 私はテレビは滅多に見ないからアイドルとか詳しくないんだよねー」

「一応、そこそこは。中の中か下ほどだと思います」

「そう。なら、依頼内容はJKアイドルにありがちな、ストーカー退治とか、キモいロリコン野郎討伐とか、学校の女子による陰湿なイジメとか?」

「……いえ。違います」


 穗乃華は首を横に振った。

 首を下げ、手をギュッと握りしめ、気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸をする。

 そして顔を上げて、輝夜の顔を正面から見つめると、口を開く。


「……――私、」

「穗乃華」


 依頼内容を口にしようとすると、穗乃華に声をかけてきた。

 夏だと言うのに黒のセーラー服を着ており、足は黒タイツ、僅かに見える手や首回りには白い包帯が巻かれている。

 全体的に薄幸そうな雰囲気を身に纏った少女であった。

 歳は穗乃華より年上で高校3年ほどに見える。


「え。七さん。どうして……」


 大蛇 七(オロチ ナナ)。

 穗乃華と同じアイドル事務所に所属している子で、穗乃華の先輩に当たる。


「時間が、もう、ない。」


 七はそう言うと、手を穗乃華に向けて伸ばすと、輝夜はステーキを切るために使用していたナイフを穗乃華へと伸びる手を向けて投げた。

 腕にナイフは刺さり血が飛び散る。


「あっ――ああ!!」


 刺さった腕を押さえ悲鳴をあげる七。

 それを見た周りの客も同様に悲鳴を上げて、ファミレスの中は悲鳴と混乱に包まれる。

 輝夜はそれに気にとめる様子は無く、椅子からテーブルを足場にすると、七の頭に向けて蹴りを入れた。

 鈍い音をさせ七は呻きながら床に倒れ込んだ。


「輝夜さん、何を――」

「正当防衛。正当防衛だから! 私が邪魔しなかったら、蛇の毒で死んでたよ」

「え」

「穗乃華に詛いを仕掛けたのはこの蛇女。私の呪い還しをくらって生きてるとはね~。ま、残り時間は少ないみたいだけど――」


 輝夜は周りを見ると、頭を掻き、大きく溜息を吐いた。


「とりあえず逃げようか!」

「えっ。えっ。」

「すみませーん。1万円、机の上に置いておきます。お釣りは結構です。ほら、穗乃華。一万円を机の上に置いて。さっさと逃げるよ」

「は。はいぃ」


 穗乃華は状況把握があまり出来ていないが、輝夜に言われた通りに、ポケットに入れておいた財布を取り出して、一万円を財布から出してテーブルの上に置いた。


「ぁ、ぁ、ぅっ、逃が、さな、い――ッ」


 七は呻きながら手を伸ばした。

 袖から禍々しい色彩をした蛇が数匹飛び出ると、穗乃華に向かい牙を向ける。

 一閃。

 穗乃華に飛び掛かる蛇たちを、剣閃が切り裂く。


「流石、十握剣の1つで須佐之男命が八岐大蛇の退治に使った「天羽々斬」。対蛇用にはこれ以上の剣はないね。ま、少し欠けているのが難点だけど……」


 ブツブツと文句を口にしながら、テーブルから降りた輝夜は穗乃華の手を握り、店の出口に向けて走り出した

 蛇と言うのは昔から質が悪く粘着質がありしぶとい事から、七とはここでケリをつけたい気持ちもあったが、少々人目がありすぎる。

 わざわざ人の多いファミレスを選んだのは、人目がある以上、こういう事態は起きないだろうと軽く見積もっての事だったが、裏目に出たとしか言い様がない。


(くっそぉ。これなら飛鳥の所にしておけばよかった)


 もし飛鳥のところで襲撃されたら、全て飛鳥に任せて楽が出来るという計算も含まれてのことである。

 勿論、飛鳥は文句を言うものの、放っておけば店が破壊されるため、渋々と退治するしかなくなる。

 借りは増えるだろうが、輝夜からすれば飛鳥にはもう散々借りを作っているので、今更1つ程度増えたところで、どうも思わないのであった。


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