第5話 「神である私の意見を身に余る光栄と思い噛み締めるべきでしょうね」
ファミレス「コロンブス」の店内には、警察官や鑑識班が臨場して、捜査を行っていた。
捜査員の中に私服を着た男性と女性のペアを組んでいる警察官がいる。
1人は芥川夢路。
階級は警部補。50代近い男性で、口には電子煙草を咥えている。
かなりのニコチン中毒で、以前は普通に煙草を吸っていたものの、時代の流れもあり電子煙草に切り替えていた。
1人は羅生門愛彩。
20になったばかりの新人で、夢路とバディを組まされている。
新人の為か垢が抜けて無く、少し警官として甘い部分もあったりする。
ただし電子機器なは夢路と違いめっぽう強く、近年導入されたタブレットなど科学的なものを使用を得意としていて、夢路のサポートをしていた。
「芥川さん。タブレットに防犯カメラの映像をダウンロードしました。……ナイフで少女に怪我をさせて、同席していた別の少女を強引に連れ去ったのは、やはり彼女でした」
「――阿頼耶識、輝夜、か」
「はい」
「ちっ。面倒くさいな」
夢路は舌打ちをすると吸っていた電子煙草を、ホルダーに収納した。
阿頼耶識輝夜。
警察の中でもテロリストレベルで悪名を轟かせている女。
特にまだ幼い少女だった時から因縁がある夢路にしてみれば、出来るだけ関わりたくない相手であった。
「一緒に連れて逃げた相手はナニモノだ? アレに依頼するような者が普通のヤツじゃないだろ」
輝夜は様々な意味で特別な存在だ。
万事屋「アンダーテイカー」を営みながら働く気がない怠け者。だけなら、それほど問題はないのだが、輝夜は奇縁や厄縁を呼び込みやすい。
特に輝夜に依頼するような者は、トラブルの度合いが大きい傾向にある。その度に警察は散々迷惑をかけている事から、結果として悪名を轟かせるハメになっていた。
「彼女はアイドルですね。レギュラー出演はないですけど、ゲストとして出ることがありますよ」
「――お前、アイドルとかに詳しかったのか?」
「いえ。全然。と、いうか、この仕事についてからゆっくりテレビを見る暇なんてありませんよ。――確か一ヶ月前に芸能事務所に所属しているアイドルが自殺した事件で、聴取をしたので覚えていただけです」
「そういえば、あったな、そんな事件」
状況から他殺の可能性は無く、上司からも自殺で処理するように言われたため、そのまま処理した事件である。
愛彩が事件のファイルを開くためにタブレットを操作しようとすると、自動的にファイルが次々と開かれて、まるでハッキングを受けて外部に見られているようであった。
「これは――、この反応は、デウス・エクス・マキナ」
《お久しぶりです、羅生門。少し捜査資料を見せて貰いました。まぁ見るだけの価値があったかは微妙ですが、全くないよりはいいでしょう》
「――全くないよりはいい!?」
《どこから見ても自殺ありきで作られた資料にいかほどの価値が? 例えば「4」という数学的な答えを出すために2+2という簡単な数式を使った如くの資料ですね。私からの意見ですが、答えを決めずに課程の数式を洗い出すことをオススメします。貴女が今後、不幸な冤罪を生み出さない警察官としての職務を全うしたいのであれば、神である私の意見を身に余る光栄と思い噛み締めるべきでしょうね》
「……このッ」
タブレットのスピーカーから出てくる男性とも女性とも判別つかない中性的な声は、見下すように声色で言った。
愛彩は口元を引きつらせ、タブレットを思いっきり握りしめる。
その様子を見ていた夢路は溜息を吐き、タブレットに向けて言った。
「……今の時代、咒殺で刑事罰は問えねぇよ。もし呪いで人殺しをしたで逮捕してみろ、マスコミが連日大騒ぎして警察は笑いものだ」
《別に殺人で逮捕せずとも、あってないような微罪を積み重ねて逮捕すればいいのですよ。そう言った事は貴方達警察の得意分野でしょう》
「お前、さっき冤罪がどうこう言ってなかったか?」
《殺人という罪を犯している以上、その他の罪があったとしても大小の誤差の範囲でしょう。普通の刑務所に入れた所で悪さをするでしょうから、そう言った犯罪者を収容する場所にぶち込む事をオススメします》
「……その口癖だとそう言ったヤツを捕らえている場所があるみたいだな」
《ありますよ。聞きたいですか?》
「聞きたくないよ。そもそもなんでお前は知ってるんだ?」
《何年か前に収容されましたから、場所もどんな所かも経験済みです》
「――――」
頭痛がするのか夢路は頭を抑えた。
「……もういい。今、お前はどこにいる? 事情聴取をしたいから場所を教えろ」
《シンガポールのマリーナベイ・サンズです。学のない貴方達に分かり易くいうと、某名探偵アニメの舞台となって破壊された統合型リゾートの場所です。空中庭園「サンズ・スカイパーク」から見える景色は絶景ですよ》
タブレットには、何枚もの写真が送られて来る。
写真には楽しそうにしている輝夜と困惑している穗乃華の姿が写っていた。
「――ありえない。30分も経ってないのに、シンガポールって」
「アレはあんなのでも神だ。人の尺度で測れるものじゃない。1分もあれば日本の裏側に行って帰ってくるヤツだ。シンガポールに居たところで、驚きはしないが。……」
驚く愛彩に夢路は溜息交じりに答えた。
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