第6話 「神は気まぐれで人に災難や試練を与えるものよ」
夢路は送られてきた写真を見る。
それには穗乃華はあまり写ってはおらず、輝夜が楽しそうにしているのがほとんどだった。
「デウス・エクス・マキナ。お前達は、シンガポールにはいないだろ。よく出来ているが、これが最近流行のディープフェイクというヤツか」
《いえ。違います。正真正銘、今現在、いる場所の写真ですよ》
「今のアイツがこんな人混みの多い場所で楽しそうにするわけないだろ。引き籠もりで人混みが嫌いなヤツだぞ。ディープフェイクで作るなら物陰から、楽しそうにしている連中にグチグチとネガティブな事を言っている姿の方が似合う」
《――――》
「熱っ」
夢路が指摘すると、デウス・エクス・マキナは反論はしなかった。
代わりにタブレットに大幅な負荷をかけて破壊。あまりの熱さに、愛彩は思わずタブレットを床へと落としてしまう。
タブレットの画面は真っ黒になり煙が出て、少し焦げ臭い。
「……逃げたな。昔に比べて宿主の影響か、モノを壊して無かったことにする事が癖付いたか?」
「それよりもタブレットは備品ですよ! 始末書、書かないといけないじゃないですか!!」
「若いときは始末書を書いておけ。歳を取ると書くのが面倒になる」
「はぁぁぁ。壊れた理由はどうします?」
「阿頼耶識の事は書くな。小さな貸しでも、貸しておけば何か使えるだろ」
「……分かりました」
少し不満そうであったが、渋々と愛彩は頷いた。
「それで……どうしますか? 件の事件、再調査しますか?」
「自殺と処理されているモノの再調査なんて無意味だ。――あれは自殺だった」
「自殺の原因が呪いであっても、ですか?」
「そうだ。それに呪いだからこそ出来ないんだよ。今の警察に、呪い関連の事件を捜査する部署は存在しない。もし呪い以外だったら、もしかしたら可能だったかもな」
「……つまり現行の法制度では、呪いによる自殺は、正に完全犯罪というわけですか」
「そうなるな」
少し苦虫を噛むような表情をした夢路は、電子煙草のホルダーを取り出して、再び電子煙草を吸う。
一息吸うと、愛彩の肩に手を置いた。
「咒殺をするようなヤツは、昔から因果応報な目に遭うもんだ」
「因果応報。本当に、そんな事があるんでしょうか」
「――――今回は阿頼耶識が関わったんだ。良くも悪くも――基本は悪くだが、術者は碌な事にならないだろう」
今まで輝夜に散々な目に合わされてきた夢路の言葉は重かった。
「それよりも、ファミレスで殺傷事件を起こした容疑者の阿頼耶識を探すのが、今の俺達の仕事だ」
「そう、ですね。分かりました」
愛彩は首を縦に振った。
「阿頼耶識を探すとして、何処から探しますか?」
本来なら自宅や事務所を訪ねて捜索するのが基本ではある。
輝夜の場合は、事務所と自宅が兼用なので、事務所に行くのが普通だが、夢路は頭を掻きながら、どうするか考える。
正直に言えばあの事務所には行きたくないというのが本音であった。
「這い寄る混沌」と呼ばれる邪神を石像に封じて、事務所前に置いてある場所である。更に防犯対策でどんなトラップが仕掛けられているか分かった物じゃ無い。
輝夜の事務所内は、デウス・エクス・マキナが造り出した神域。一般人と比べて少しだけ強い程度の夢路では次元が違い、万が一があった場合、手も足もでないレベルである。
「――とりあえず周辺を探すぞ」
「分かりました」
一緒に行動するよりは、別々に行動した方が探す効率がいいということになり、愛彩と夢路は別行動で輝夜を探す事にした。
愛彩と違い真面目に探す気は更々無い夢路は、1人で行動することになったのを良いことに喫茶店に入り、英気を養うと言う名のサボリをする。
「いらっしゃい。あら、刑事さん。またサボリ?」
「こう暑いと捜査も大変なんでね。あんた達と違ってちゃんとした人間な俺は、適度な休憩が必要なのさ」
夢路がやって来たのは昼間は喫茶店として営業している「ウイッチクラフト」
仮に相棒の愛彩に見つかり、咎められても、輝夜が所長を務めている「アンダーテイカー」の一階にある店のため、張り込み等の言い訳が立つ。
また何かと輝夜関連の面倒事に関わる事が多い夢路にとって飛鳥は、非常に有益な情報提供者でもあった。――その分、情報量は高いのはお約束である。
カウンター席に座った夢路の前に、アイスコーヒー、茹で卵、トースターを置く。
夢路は来店した際に、いつも同じメニューを頼むため定番と化していた。
「――やけに手際がいいな」
「アレが依頼を受けるようだったから。きっと刑事さんが来るかもと思って一応用意してたの」
「あいつは引き籠もってくれてた方が、世界は幾分か平和なんだけどな」
「人災――いえ、神災、或いは、神難(シンナン)として諦めるしか無いわ。神は気まぐれで人に災難や試練を与えるものよ」
「人間にとっては、ありがた迷惑な話だ」
「魔女にとってもそうよ」
夢路と飛鳥は互いに苦笑と溜息交じりに答えた。
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