第7話 「リアルで不幸な事があったら、ガチャ運が良くなるって俗説知らない?」
「はぁ~~~、死にたい」
ファミレス「コロンブス」から逃走した輝夜と穗乃華は、6階建ての空きビルの4階に居た。
何かの会社が入っていた名残だろう。PC等の機器類はないものの、椅子やテーブルが乱雑に放置され、埃や汚れなども見受けられる。
ただ、そんな事は気にする様子もなく、輝夜は床に不貞腐れ横になっていた。
「……」
そんな輝夜を呆れた眼差しで穗乃華は見ている。
このビルに不法侵入する少し前に、輝夜は穗乃華を連れてコンビニに立ち寄った。
そこで輝夜は、緊急事態だと穗乃華に言って2万円分のギフトカードを購入させたのである。七に襲撃されたばかりで、色々と混乱していた穗乃華は、言われるままにギフトカードを購入した。
穗乃華はてっきり逃走するために必要と思っていた訳だが、使用用途は――――ガチャへの課金であった。
2万円分を全てガチャへ。
結果は不貞腐れて横になっている輝夜を見て分かる通り爆死である。
「依頼していていうのも、アレですけど、この非常時にガチャへの課金って――。非常識すぎます」
「何言ってるの? こういう事態な時だからこそ! ガチャに課金するべきなんだよっ」
「ええぇ」
「リアルで不幸な事があったら、ガチャ運が良くなるって俗説知らない?」
「初めて聞きました」
輝夜は言う。
それは数年前のこと。
まだ「アンダーテイカー」を開業する前。自堕落な生活を送ろうとした時の出来事。
ちょっとした依頼を受けて小金持ちになった輝夜は、俗に言う億ションを購入した。渋谷全体を見下ろすことが可能で、ベランダにはプールが備え付けられている豪華な仕様であったが、購入して住み始めようとした矢先。
攻撃ヘリコプター三機によって、ロケット弾は十発以上、機関砲からは何百発もの鉛玉を打ち込まれたのである。
「――もしかして、その状況で、ガチャを回したんですか?」
「勿論。回しましたとも」
「……」
穗乃華は絶句した。
どういう神経をしていたら、そんな状況下でガチャを回せるのだろう、と。
また穗乃華は、輝夜り話を聞いて、数年前に完成したばかりの億ションが、ガス爆発で大破したというニュースが流れていた事を思い出した。
輝夜からすれば戦闘ヘリコプター程度は打ち落とす事は難なく出来るが、その場合に色々と後始末が面倒なため、とりあえず打たれるまま放置して、当時、ガチャ沼という底なし沼に片足を突っ込みかけていた事もあり、終わるまでガチャを回していたのであった。
「――それで、どうなったんですか?」
「ん。ガチャは10連で最高レア6枚抜き! 脳汁ドバドハですよ」
「そっちじゃなくて! その、攻撃ヘリコプターの件です」
「なんだ。そっちか。相手方と話し合いで解決したよ。やっぱり人間同士。言葉ってものがあるのだから、話し合いで解決しないとね! 向こうも誠心誠意、真心込めて言ったら納得してくれて迷惑料とか色々込みでだいぶお金くれたなあ」
「……そうなんですね」
穗乃華は少しだけ感心した。
今までの言動を見ていたらとても話し合いで手打ちにするタイプに思えなかったからだ。特に億ションなんて一生物の買い物なら尚更である。
――騙されてはいけない。
確かに話し合いで解決はした。
話し合いの場所が、襲撃を依頼した相手が寝ているベッド上で、口内に銃口を突っ込んだ状態である。更に下手に反撃をさせないために、大事な存在を人質に取った状態だ。相手に拒否権なんてものはなかった。
「まぁ、私の話はいいんだよ。それよりも依頼内容を話して? 依頼内容が分からないとどうする事もできない。さっきの子が此処に来るのも時間の問題だろうし」
「え。なん、で、七さんが、ここに来るって」
「穗乃華のスマートフォン。GPS機能で位置特定できるようになってるもん。後、近くにいれば盗聴できるアプリまで仕込まれてるよ?」
「――――!!」
穗乃華は輝夜の言葉で慌ててスカートのポケットからスマートフォンを取り出して電源をOFFにして投げ捨てた。
GPS機能による位置特定と盗聴。
これでさっき七が、タイミング良く穗乃華の前に姿を現した理由が分かった穗乃華は輝夜を睨み付けて言う。
「なんで……なんで、分かってたら言ってくれ無いんですか!!」
「えー、だって依頼内容、まで聞いてないもん。依頼内容と関係ないことを指摘してさ、面倒事が増えるのはノーセンキュー」
「――私の、呪いは解いてくれたじゃないですか」
「それは解かないと、依頼内容が分からないから仕方なく?(託けて美少女とエッチしたかったし)」
「……」
穗乃華は色々と言いたいことがあったが、グッと我慢して言葉を飲み込んだ。
もしも色々と言って依頼を拒否される事があれば、この状況下で独りぼっち。輝夜が言うように七が、穗乃華の命を狙っている現状で独りにされたら、穗乃華の死は確定である。
スカートを力強く握りしめる。
(別に死ぬのはいい。でも、今はまで死ねない。葵の為にも――絶対にっ)
不貞腐れて横になってソシャゲの周回に勤しんでいる輝夜に向けて、穗乃華はポツポツと言葉を紡ぎ、話を始めたのだった。
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