第10話 「デウス・エクス・マキナ。神があらゆる自分たちの持つ権能や道具を与え造り出した神。自称、全知全能で万能無敵の神サマ」

 輝夜がポケットに入れてあるスマートフォンから、男とも女とも分からない中性的な声が、そう宣言した。

 声の主は神造神デウス・エクス・マキナ。

 基本的に、デウス・エクス・マキナの声は同化している輝夜にしか聞こえないが、スマートフォンを媒介にして他者へと言葉を届ける事が出来る。


「え。――不死、?」


 デウス・エクス・マキナの言葉に、穗乃華は戸惑いの声を上げた。


《ええ。契約が完了した以上、貴女はこの時から不死となりました。おめでとうございます。古今東西の権力者が追い求める不死です。本当なら不老まで付けたかったですが、現代社会で一般人が歳を取らないと目立ちますからね。サービスです》

 

「……阿頼耶識、さん。今、喋っているのは、誰なんですか――ッ」

 

「あー、これは、デウス・エクス・マキナ。神があらゆる自分たちの持つ権能や道具を与え造り出した神。自称、全知全能で万能無敵の神サマ。で、ある意味でもう1人の私。我は汝、汝は我ってヤツだね」


 少し鬱陶しそうに輝夜は言った。

 輝夜はデウス・エクス・マキナは同化しているものの、あまり良好な関係とは言いにくい状態である。とはいえ、デウス・エクス・マキナは輝夜の事を最も愛しているからこそ同化した訳だが、輝夜の方は一概にそうとはいえなかった。


「不死って。そんな。私の事を騙そうとしてるんですよね?」

 

《騙す? 神である私がこんな些細な嘘を付くと? いいでしょう。一度死んでみましょうか。「私」が手を汚すまでもありません。もう少ししたら、蛇が来るでしょうから、一度呪い死にしてみてばいいでしょう。ああ。不死と言っても、痛みはなくならないので、もの凄い痛いですよ。でも、良かったですね。自称・親友と同じかそれ以上の苦痛を味わいつつ死ねないのですから、望み通りですかね?》

 

「――私は、そんなこと、望んで、なんか、」


 震えた声を漏らす穗乃華。

 なんとかデウス・エクス・マキナに反論を試みようとするものの、上手く言葉が発せられない。

 それは穗乃華が心の奥底で、自覚はなくとも思っていた事だった。


 気まずい雰囲気が場を支配していると、部屋の出入り口の扉が勢い良く破壊された。

 破壊したのは人間を一呑みする事が容易いほどに大きな黒い蛇だった。巨大な図体をルーム内へと入れると、赤い眼で輝夜を睨み付けてくる

 巨大な黒蛇が破壊して出来た穴からは、大蛇七が姿を現す。

 ファミレスで見た時よりも、呪い返しの影響もあり、息づかいが荒く痛々しさが増していた。


「――見つ、けた。今度は、逃がさ……ない」

 

「逃がさない? 面白いジョーダンだね。ファミレスの時ならまだしも、今の私は契約によって「リミッター」が解除されてフルパワー発揮できる状態なんだよねぇ。し・か・も、呪い殺したい相手が不死と化した今! どう転んでも勝ち目はないね!」

 

「不死、なら、蛇の腹の内で、永遠に苦痛を味わえば、いい。不死に、なった、事を、後悔、しなが、ら」

 

「……あ、そう来るのね。面倒くさいなぁ、ほんと」


 輝夜のような超能力者であれば、蛇に呑まれたとしても、如何様にも脱出する手段はあるが、穗乃華のようなただ不死なだけの少女が飲み込まれたら、蛇の胃の中で蛇が死ぬまで、胃液で肉体が溶けながら再生を繰り返すことになる。

 それは死ぬ事の出来ない地獄。きっと肉体は壊れずとも、精神は確実に壊れるだろう。

 ただ、穗乃華は、少しだけ、本当に少しだけそれも仕方ないかなと思えた。


「それ、に、私では、お前、には、勝てない、のは、分かって、る。だから、ヘルプを、頼ん、で、ある」

 

「……ヘルプ?」


 輝夜はイヤな予感を感じた。

 因みに輝夜のイヤな予感は、99.99%の確立で当たる。


「アァァァァァラァァァァァヤァァァシィィィィキィィィィィィ――――!!」


 憤怒の大声を出しながら、窓ガラスを勢い良く割って1人の少女が侵入してきた。

 朱い短髪に、深紅の瞳。動きやすさ重視のためかミニスカとスパッツを穿いている。そして手には自分の背丈ほどの鉄棒が握られ、額には左右2つの角を生やしていた。

 百鬼(ナキリ)鬼淋(キリン)。

 見掛けは15歳ぐらいであるが、実年齢は30近いため、合法ロリに分類されるが、現代では数少ない、混血では無い、純血の鬼種である。


――万砕――


――天に斉しい一撃――


 鬼淋の鉄棒でを勢い良く相手に叩き付けて万物を砕くだけの業「万砕」と、輝夜は右拳にに力を込め天――つまりは神の攻撃に斉しい一撃が、ぶつかり合った。


 雷鳴のような激しい音が鳴り響き、空間が2人の攻撃に耐えきれずに、軋み、歪む。


 僅か一秒にも満たない互いの攻撃。

 圧し負けたのは鬼淋の方であった。突入して場所ギリギリまで飛ばされる。


「――鬼淋ちゃんが出てきたという事は、人材派遣会社「JOKER」が関わってたのか。一億円じゃあ安すぎたなぁ」

 

「ボクの事を! 気安く! 鬼淋ちゃんと! 呼ぶなぁぁぁ!!!」


 今にでも噛み付いてきそう勢いを出しながらも、深紅の瞳を爛々と輝かせている。


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