第9話 「神と人の契約の概念であるテスタメント神の権能の下で交わされた、絶対不履行不可能な契約であると宣言しましょう」


 穗乃華は葵が自殺した件で、警察から事情聴取を受けることになる。

 自殺した原因について警察から聞かれたが、穗乃華は答える事が出来なかった。

 蛇によって殺されたなんて言っても信じてはくれないだろう。また、性的な接待が行われていた事を言おうとすると、口内から這入った蛇が蠢き穗乃華の口を封じた。

 その様子から、幼馴染みで親友が死んだショックだと警察に認知され、不審な点も出なかった事から、通り一辺倒の捜査が行われ、自殺と判断された。


「それは忖度が働いてるね。間違いないね。自殺の件を深追いして、接待させてたなんてのが、少しでも出たら、接待を受けていた国会議員にもマスコミが押しかけるのは間違いないだろうからね。アイツらは捜査に関しては二流のくせに、上級国民に対しての忖度だけは超一流なんだよなぁ」


 ※個人の感想です。


「――阿頼耶識さんは、なんか警察に恨みがあるんですか」

 

「別にないけど。ただしょっちゅう不当逮捕に不当拘束を行って来て、面妖な怪異事件が起きると金一封をちらつかせ上から目線で、捜査協力は国民の義務だとか曰った挙げ句に、ちょっと小突いたら公務執行妨害という国家権力を直ぐさま行使してくる狗達に、全然、全く、これっぽっちも悪感情は抱いてないよ」


 かなり恨んでいるなと、穗乃華は感じた。


「依頼内容は分かった。忖度してきちんと仕事をしなかった連中へとの報復だね。いやー、依頼が来た以上、私の意思に関係なくするしかないなぁ。ああ、仕方ないなぁ」


 嬉々とした声色を出す輝夜。

 正直、穗乃華が事務所に依頼をしに行ってから、ここまでで一番やる気を出しているようにすら思えた。

 とりあえず制服キャリア組の不正情報をネット上で晒す為に、スマートフォンを操作は始める輝夜だったが、穗乃華の否定で手は止まる。


「……いえ。違います」

 

「えーー」


 あからさまにがっかりとした声色を輝夜は出す。

 輝夜は神造神デウス・エクス・マキナと原子レベルで融合しているため、様々な神の権能を使用出来る訳だが、輝夜自身に幾つかの「軛」を打ち込んでいる。

 その「軛」の1つが、他者に頼りにされたり、頼まれたりしない限り、神の力を十二全使用出来ないというのがある。

 そのため、穗乃華が警察のキャリア組が行っている不正の暴露が違うと言えば、もうそれ関連で神の力を十二全に発揮することは叶わない。

 先程の事務所で穗乃華とエッチをした際も、穗乃華からして欲しいと頼まれたからこそ、神の持つ性技を遺憾なく発揮できた訳である。


「それじゃあ、何が望みなの?」

 

「――葵が望んだように、芸能プロダクション「ハーロック」がやって来た事を全てを暴露して……終わらせる。それが、私の望みです」


 不貞腐れて横に寝ていた輝夜は、起き上がり穗乃華と視線を合わせる。

 その眼は、虹色に輝き、見る者を魅了と畏怖を齎す神々の眼。


「……っ……」

 

「それが、本当に、私にして欲しい依頼内容なのかな?」

 

「そう、ですよ。それ以外に、ありません」

 

「どうだろうね。まあ、一部は含まれているだろうけど――――」


 穗乃華がもたれかけている壁に手をかけて、至近距離で見つめ合う輝夜と穗乃華。


(この子は間違いなく終わらせたがってる。自分の命を。「ハーロック」の事が世間に知らしめたら、満足して自殺した子の後追い自殺をするだろうね。ああ、なんて羨ましい。自分の思い通りに死ねるなんて――。私は死ねないのに)


 神造神デウス・エクス・マキナと融合している輝夜は、ほぼ完璧に近い不老不死であった。故にどんなに絶望しても、自身で命を絶ち、死ぬ事も出来ないのである。

 もし、もしも、神代に出てくるような、神殺しのスキルを持つ英雄でもいれば、多少は殺されて死ねる可能性はあるものの、現在ではそれも叶わない事だ。


 輝夜は壁から手を放すと、空間をねじ曲げ、紙とボールペンを出現させる。

 乱雑に放置されている机の上で、紙にボールペンで依頼内容を書いていく。

 そして書き終わると、穗乃華に提示した。


「はい。これが契約内容だよ。芸能プロダクション「ハーロック」がやってきた事を世間に暴露するって事でいいよね?」

 

「――はい」

 

「で、報酬だけど、一億円ね」

 

「は。いち、おく?」

 

「そうそう。どうせ証拠も何もないんでしょう? 一から証拠を集めて、上級国民たる政治家様御用達の接待屋を潰すんだから、これでも安い方だよ。しかも無利子。人間、その気になれば一億は一生掛けたら払える払える。それとも、幼馴染みで親友の自殺を受け入れて、今まで通りの生活を送る?」


 輝夜自身もズルい言い方だとは思う。

 穗乃華はカッとなり行動へ出た。輝夜から契約書とボールペンを奪い、契約書を地面に置くと、自分の名前を殴り書きした。


「これで良いですか!」


 穗乃華はサインした契約書を輝夜の前に提示した。


《ここに契約は成立しました。神と人の契約の概念であるテスタメント神の権能の下で交わされた、絶対不履行不可能な契約であると宣言しましょう。

 内容は以下2つ。

 ・1つ、阿頼耶識輝夜は、どんな手を使用しても芸能プロダクション「ハーロック」の接待を世間に暴露して潰す

 ・1つ、鎗水穗乃華は、阿頼耶識輝夜に依頼料一億円を払い終えるまで不死である》



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