第11話 「顔が真っ赤だ。まるで赤鬼だね。あれって羞恥と憤怒。どっちだと思う?」


 人材派遣会社「JOKER」

 多種多様な人材を保有している会社で、会社名が表す通り案件によっては切り札になり得えた。

 早い話。現代の傭兵稼業の1つと言えた。

 所属している人材も、それなりに厄介な者達が揃っていて、輝夜が出来る事なら関わり合いになりたくないと思っている会社であった。


「あ、あの、阿頼耶識、さん。あの人、なんだか、凄く、睨んでいるんですけど」


「あー、睨んでるねぇ」

 

「なんで睨まれてるんですか?」


「……レイプしたからかなぁ」


「――――え」


 本能的に輝夜から一歩距離を取る穗乃華。

 それを見て慌てて輝夜は、言い訳を始める。


「あ、あの頃は、ちょっと私も擦れてたんだよ。さっき言った買ったばかりの億ションを壊された直後だった事もあって、つい、ね?」

 

「いや――ついで、レイプをするのは、どうかと思います」


 穗乃華、また一歩後ろへと下がる。


「向こうは私を殺しに来てたからね!? 殺しに来た相手を、返り討ちで殺さずにレイプしただけで帰してあげる私って優しくないかな!」

 

「……」

 

「私だって少しは、ほんの少しは反省したんだから。まさか、」


 ドン引きしている穗乃華に対して、輝夜はスマートフォンを操作して、音声を流す。


『ごめんなさいごめんなさい。ボクが悪かった。ボクが悪かったです。だから、お願いです。これ以上、ボクを犯さないで、犯さないで下さい。や、やだ、やだやだやだやだ。助けて。ボクを助けてよ。萃ぅぅぅう。いや、いやだぁぁぁ、あっああああ――』


 音声再生を切る。

 鬼淋の音声に出てきたのは、実の弟である百鬼(ナキリ)萃(アツム)である。

 彼も純血の鬼であるが、昔、鬼淋に角を折らた為に満足に力を出せずにいた。今は、とある財閥の令嬢のボディーガードをしながら、自分の角を折り、持ち去った姉である鬼淋を探していた。

 つまり鬼の象徴とも言える角を折り持ち去り、その場にはいない弟に助けを求めるほどに、あの時の鬼淋は追い詰められていたという事である。


「こんな風に、泣き喚きながら、いつも見下している弟に助けを求めるなんて、ねぇ」


「――アラヤシキ! オ前ハ、絶対ニ殺シテヤルゾ!!」


「――うわぁ。顔が真っ赤だ。まるで赤鬼だね。あれって羞恥と憤怒。どっちだと思う?」


「たぶん……両方じゃないでしょうか。っていうか、凄く睨んできてるんですけど、私は無関係ですよね!!」


「私の依頼人だし、無関係じゃないよ。あれは純粋な鬼だから、食人衝動で食べられちゃうかもね。でも、大丈夫。私に一億完済するまでは、どこを食べられても死ぬ事は無いよ」


 何が大丈夫なのかと、思わずツッコミたくなった。

 ふと、ある事に穗乃華は気がついた。

 もし此処で輝夜が殺された場合、きっと穗乃華は不死のままであるということを。

 デウス・エクス・マキナは言った。サービスで不老にはしなかったと。

 依頼料を支払う相手がいなくなり、不死が解けなかった場合、普通の人間と同じように歳を取り、老婆になり、認知症を煩ったとしても、寿命で死ぬ事がないのである。

 恐怖を感じた穗乃華は、引いた足を前へと進めて、輝夜の服に手を掛けた。


「大丈夫、ですよね」


「んー。問題無いかなぁ。そもそも一対一で、呪い返しで死にかけの相手に負けるのが難しいね」


「え。あの阿頼耶識さんに凄い恨みをもっている子の相手は、しないんですか?」


「しないよ? 嫁姑問題に関わりたくないんだよねぇ」


「よ、嫁姑問題?」


 何を言ってるんだ、この人は。という、至極真っ当な疑問は直ぐに解消される。

 鬼淋が破壊した窓側の穴から、1人の女性が突入してきた。

 羅生門愛彩。

 ただ先程まで違うのは、額からは角が一本生やしている所だ。そして手には、杖に偽装している日本刀が握られていて、抜刀した刀が、鬼淋の首元に狙いを定める。

 が、首の皮膚に当たる寸前で、鉄棒の持ち手の所に当たり、鉄と鉄がぶつかり合う音が響いた。


「お久し振りです。義姉さん」


「――ボクを、義姉さんって、呼ぶな!!!!」


 鉄棒の持ち手を上げて弾く。

 そして手に持つ鉄棒の大きさを先程までの半分以下――鉄パイプほどの大きさにすると、鬼淋と愛彩のぶつかり合うが始まった。

 鉄棒と刀が、幾重にもぶつかり火花が飛び散る。


「義姉さん。萃の角を返してください。それさえ有れば、萃と結婚する事が出来ます」


「イヤだね! 愚弟の角を取り戻して結婚したかったら、ボクを斃してからにしな! 花京院のお嬢様にも、同じ事を言ってるよッ」


「――ッ」


 愛彩は舌打ちをした。

 萃がボディガードをしているのは、三大財閥の一つ花京院家の次女である花京院涼香であり、涼香は萃に対して仄かな恋心を抱いていた。

 例え家同士が決めた婚約者とはいえ、あまり面白くない事実であった。

 とはいえ、萃の手前もあり、表だった対立は涼香も愛彩もしてはいない。遭うことがあれば、周りが真冬のシベリア程度の寒さにはなる程度だ。


「そもそも、里から出て、警察なんて実戦経験がほとんどない場所にいるお前が、ボクに勝てる訳がないだろうが!!」


 十合ほど打ち合っただろうか。

 愛彩が持つ刀は亀裂が奔ると砕け散った。


「――ッ」


(まぁ、当然だよね。鬼淋ちゃんが持つ鉄棒『天望万化』は、鬼族が持つ現存する数少ない鬼神具(鬼専用の宝具)の1つ。羅生門が持つ量産品と刀じゃあ、性能は雲泥の差。市販の包丁とエクスカリバーが打ち合いをしているようなもんだからね)







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 本話に名前だけ登場した百鬼萃と花京院涼香が主人公とヒロインの作品、


『お嬢様がボディガード(俺)よりも強すぎて、護るより、護られる事が多い件』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893788201


も、宜しければお願いします

短編で、今作とは多少設定が変わってますが、ほぼ同じ世界線で、輝夜も登場しています。




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