第14話 「酷い! 一生懸命、働いた私に対するその態度ッ。少しは労ってッ!!」


 翌々日。


 輝夜は「ウイッチクラフト」のカウンター席で、「く」の字に曲げて、自分は疲れてますポーズを取っている。

 数々のお酒を置いてある棚の中心部にある50v型の大きなテレビでは、ワイドショーが流れていた。


『明かされる芸能事務所「ハーロック」の性接待』『複数名の国会議員も関与か』『資金洗浄。裏金。献金。性接待。「ハーロック」の闇を暴く』


「つまんない。チャンネル変えてー。ドラマ再放送か。海外映画でも見せてよ」


「……自分の事務所で見なさいよ」


「事務所だと冷房付けるから電気代がいるじゃん! ここなら飲物一杯分だけで、クーラーが効いた涼しい空間に、終日いられるもん」


「今すぐ出て行ってくれる?」


「酷い! 一生懸命、働いた私に対するその態度ッ。少しは労ってッ!!」


「……一生懸命……働いた?」


「なにその疑問形! 働いたよ。もう数ヶ月分は余裕で働いたね!!」


 輝夜は酒のつまみ程度の話題として、先日の出来事を飛鳥には話していた。

 話した内容からは、永久に漏れる可能性がある穗乃華とのセックスした事は当然のように省いている。


 飛鳥が輝夜本人から聞いた限りでは、ほとんど何もしていないように思えた。

 唯一した事と言えば、飛鳥にかけられた呪いを解いたことぐらいだろうか。

 他はファミレスで中学生に奢らせて、七から逃走。逃走した先のビルで、穗乃華に一億円の依頼料を請求。後は「JOKER」と契約を結び、「ハーロック」関連は全て「JOKER」がした事に過ぎない。


「――で、大蛇、七だっけ? 結局、借りたの?」


「借りざる得なかったんだよ。ただ、せっかく借りた以上、役に立って貰わないと困るから、咒術の勉強と強化させてる」


 とりあえず自身に纏わり付いている呪いを、制禦して飼い慣らすように指導はした。

 物に出来ればそれなりに使える人材にはなるだろう。出来ない場合は、出来るまで繰り返させればいい。時間神・クロノスの権能で、死ぬと時間が七だけ一時間前の状態に戻るように細工していた。

 何回も死を繰り返すハメになるが、喉元を蛇に噛み切られた恨みは晴れてなかった。


「依頼人は「ハーロック」の件で「JOKER」に預けられたけど、私への依頼料返済のために、「JOKER」で働くみたい。物好きだね。あんな所で働くなんてさ」


「あら、コーメイは人材を使い熟す点では、かなりの物よ。いっそ就職したら?」


「イヤだよ。あんな所に就職したら、週5日制で8時間から9時間、残業無しで働かされるんだよ!! 私に死ねと!」


「割と普通どころかホワイト企業じゃない」


 呆れたように飛鳥は言った。

 輝夜は水を一気飲みをして思う。

 まさか穗乃華が「JOKER」に入るとは思ってなかった。キサラが安全保障の上で、「ハーロック」の件で借りたいと言うから、本人の意思を尊重して渡した。

 仮にも完全な不死の存在。

 どんな事に使われるか分からないが、輝夜としては、「ハーロック」の件が「JOKER」によって片づいた以上、一億円の依頼料が分割で払われるなら、後の事は本人次第だと考える。


(どんな事をさせられるにしろ、返済には10年ぐらいはかけてほしいなぁ。その頃になって死にたければいいし、死にたくなくなってたら、残りの余生を好きに生きれば良いさ。もう私が関わる事じゃ無い)


 本来なら60歳頃まで生きさせて、どうするか考えさせようと思っていたのだが、「JOKER」により目算は狂った形だ。

 そもそも輝夜自身が死にたくても死ねないのに、簡単に死を選ぼうとする穗乃華に苛ついた事が、不死という呪いを掛ける原因でもあった。

 少し溜息を吐いていると、「ウイッチクラフト」の扉が開く。


「……邪魔をするぞ」


「いらっしゃい。刑事さん」


「げ。不良刑事。何しに来たの。普通の刑事は仕事の真っ最中だよね。何をサボってるの。きちんと働きなよ!」


「お前にだけは言われたくねーよ!!」


 夢路はLのカウンター席の、入り口手前に座り、奥の方に居る輝夜と距離を取る


「今日は、お前に文句を言いにきたんだよ」


「文句?」


「羅生門の件だ。お前なら、アイツがあんな状態にならずに済んだんじゃないか?」


「いや、その事で文句を言われても困るよ。勝手に登場して、鬼淋ちゃんに攻撃を仕掛けて返り討ちにあったのは、羅生門の責任じゃん。もう大人なんだから、自分の行動には責任を取りなよ」


「――――それでも、お前がその気なら、もう少しなんとかなっただろ」


「なったかも知れないけど、所詮、嫁姑問題の延長線上みたいなものだし? 究極的には部外者なんだから、関わり合いになるのもね。依頼があったわけじゃないし。でも、まぁ、知り合いだから? もし鬼淋ちゃんが殺しちゃったら死なない程度には気を使ってたかな。それに、純血の鬼なんだから、人間よりも格段に再生能力は高いハズだから、一週間ぐらい寝たら治るんじゃない? 警察は休み中々取れないんだから、ちょうどいい休暇だよ」


 流石に見殺しにすると――重体ですら文句を言ってくるので、本当に殺すようならちょっとは手を出した。


「因みに羅生門は、入院中?」


「……いや、自宅で静養している。お前が言うように、アイツは鬼だからな。人間の病院にはかかれない」


「そっか。血液検査とかされたら大変だもんねぇ」


 輝夜はスマートフォンを操作し、LIFEと言うSNSアプリで文字入力を行う。


『羅生門が職務中に重体を負ったみたいだからお見舞いに行ってあげたら? 入院じゃ無くて自宅で静養中だってさ。ああ、両手使えないみたいだから、食事とかお風呂とかも手伝ってあげなよ。そのついでにベッドインするのもいいんじゃないかな!』


 と、いう文面を入力後に、婚約者である萃とその主の涼香が登録しているグループに、誤って送信した。

 勿論、わざとである。

 どんな愉快なことになったかは、後で萃から聞くことにした輝夜だった。


「で、用件はそれだけ? なら、もう聞いたから、さっさと職務に戻りなよ、不良警官」


 輝夜はシッシッと追い払うように手を振るう。


「今は昼の休憩中だ。文句を言われる筋合いはねえよ。そもそもお前に、追い払う権利はないだろ」


「あるよ!」


「ないわよ。なに、当然のように言ってるの。どちらかと言うと、飲物一杯で何時までも粘る迷惑な客の方が、さっさと出て行って欲しいわ」


 飛鳥にジト目で睨みながら言われ、少しだけ顔を引きつらせる輝夜だった。




END





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阿頼耶識輝夜は働きたくない! 華洛 @karaku_f

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