第17話 妖精王の来訪
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シリアス?回 勇者と魔王と勇者と聖女編
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コンコン!
「イノ、おはようございます。
朝ですよ。起きてください。
起きないと……」
その声を聞いて、瞬時に目が覚めた。
「起きてるよ!」
カチャ、キィイイイ!
木の扉は嫌な音を立てながら開いていく。
扉が開くとそこにはティコア満面の笑みで立っていた。
「イノ―! 起きてるというのはベッドからでて、
着替え終わってることですよ」
そういうと、盛大に掛け布団を引きはがす。
「さみぃ!」
「イノ……これは何ですか?……」
「へっ?」
微かに背中の方に温もりを感じる。
振り返ると八歳ぐらいの裸の幼女が寝ていた。
「ちょっと待って、俺知らない……」
「じゃあ、どっから来たんですか?」
「本当に知らないんだよ!」
「下着に続いて、裸の赤ん坊……赤ん坊?」
「そうだ、赤ん坊はそこに寝かせてたはずだぞ」
部屋の隅に置いておいた、揺りかごはもぬけの殻となり、
ティコアが借りてきた毛布と服だけが残っていた。
二人の裸の幼女に目を向けると、
「まさかね……」
と声を揃えて、確かめ合うのだった。
ゼニスの手紙を見て、全て納得した。
本来、先に見ないといけなかったが、
ティコアが赤ん坊と下着を見つけた事で大騒ぎとなり、
ゼニスの手紙をすっかり、忘れていたのであった。
「一通目にはこの子をよろしくと女子高生だったから、
イノと気があうだろうって……」
「それで二通目には何て書かれてたのですか?」
イノは無言でティコアに手紙を渡す。
その内容を確かめると、
「ゼニス様もたまには、羽を伸ばさないといけませんから、
仕方がありませんね」
と笑みを浮かべて手紙を返してくる。
「また、何か問題を押し付けられたような気がするのは
俺だけか?」
「そもそも、イノは神なのですから、自分の事ぐらい
ちゃんと決めてください。さぁ、顔洗って、朝ごはんにしましょう」
「この子はどうするんだ?」
「私が起こして、服を着せておきますから……
いつまでも乙女の裸を見てないで、早く行ってください」
朝からティコアに怒られて、しょげながら顔洗いに行くイノであった。
部屋に戻ると、幼女が着替え終わったところであった。
「イノ―ぉ!」
イノの姿を見ると、幼女が足元に駆け寄り引っ付い来る。
「えぇ……ティコア、俺の名前教えたのか?」
「いいえ、まだですけど」
見た目は幼女だがゼニスの話では、女子高生と書かれていた。
変な対応をすると後々、めんどうだなと感じながらも
大人の対応を見せるイノ。
「えと、どこかでお会いしましたっけ?」
「私の裸、見て覚えてないの?」
顔をぷぅと膨らませながら、イノを睨みつける。
「やっぱり、昨日の赤ん坊なんだね……ハハハ」
引きつった笑いをあげるイノ。
「さぁ、自己紹介は後回しにして、先にご飯を食べに行きましょう」
「おはようございます。勇者様!」
衛兵たちがティコアに挨拶をする。
ティコアたちは会釈だけすると、客間へと入って行った。
「広い部屋だな」
イノが関心しながら、部屋を見回す。
「オホン、イノ」
「あっ、すまん」
イノは不審な行動を咎められ、
侍女たちが部屋の中で待機する中で、
黙々と食事するのは楽しくも無く、おいしくもなかった。
「さぁ、これからどうしますか?イノ?」
部屋に戻ると、開口一番にティコアが聞いてくる。
「爺ちゃんに言われて、ここに来たけど、目的も決まってないんだよな
爺ちゃんは、ここで何をさせたかったん、だなろうな?」
「妖精の村ですから、妖精に合わせたいのだと、思いますけど?」
「でも、妖精は一人?一匹も見かけなかったぞ」
「確かに、そうですね?」
部屋で次の目的を考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「勇者様、勇者ティコア様」
ティコアが部屋を開けると、相変わらずの揉み手をする大臣が立っている。
「おはようございます。勇者様」
「おはようございます。どうかされましたでしょうか?」
「はい、実は妖精王が来訪されまして、今、
城内は大騒ぎになっております。来訪された目的が、
勇者を一目見たいとの事で……」
「私が会えばよろしいのですか?」
「はい、是非そうして頂きたく、こうして、飛んでまいりました」
「いいですよ」
「それは良かった、では早速案内させて頂きます」
「イノ、いきますよ」
「オホン、あの、勇者様に会いたいという事なので
そこに従者を連れて行くのは……」
「では会うのをやめましょう」
ティコアが踵を返し振り向こうとすると、
「いえ、決して連れて行くなというわけでは……」
「大臣、彼も私の仲間です。彼がいなければ、
ここまで来れませんでした」
「わかりました。では早速お部屋に案内させて頂きます」
しぶしぶと大臣は了承し、妖精王のいる部屋へと案内する。
彼としては『勇者と妖精王と大臣』が謁見したとなれば、
城内でも勢力が強くなると踏んでいたのだろう。
しかし、現実は『勇者と従者と妖精王と大臣』になってしまった。
「失礼します。勇者様のご到着です」
大臣がそう言って、部屋のドアをあける。
妖精王と言われたその男は、背中に透明な蝶のような羽を生やしていた。
大臣が入り、ティコアが入り、俺が最後に部屋に入る。
扉を閉めると、窓から景色を眺めていたその男は、
自分の側近たちが震え慄いてるのに気付く。
すぐに後ろを振り返った男は、みるみると血の気が引いていった。
今にも土下座して許しを請いそうなほど、顔は青白く、筋肉は強張っている。
「妖精王殿いかがされましたか?」
大臣が機嫌をうかがうように尋ねると、
「大臣殿、申し訳ないが人払いをお願いしたい」
「へ? それは私も含めてでしょうか?」
「無論です」
自分は大臣であるが、妖精王の機嫌を損ねるわけにもいかない
しぶしぶと部屋を出る時に、イノに向かって強く当たろうとする。
「従者も部屋を出るのが当たり前ですよ!」
イノもさすがにこの大臣をぶん殴りたいと思い始めた直後、
「なりません!」
ティコアが大臣の行動を制止する。
「妖精王殿、私の従者をこの部屋にいさせてもよろしいですかな?」
ティコアの問いに何かを察したかのように、妖精王は了承する。
部屋を追い出された大臣は、はらわたが煮えくり返っている。
「何で私があんな従者より格下な扱いを受けねばいけないのだ!」
不名誉な上に従者より格下扱いを受けて、大臣は怒り狂っていたのであった。
一方、大臣を部屋より追い出した、妖精王と側近の妖精は
地べたに頭を擦り付け、必死に自分の不手際を謝っていた。
イノを従者と認識するあたり、
神であることに気づいていないのは明白だった。
妖精王が今もっとも恐れているのは、
目の前にいる勇者と呼ばれたティコアだった。
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ここまで、お読み頂きありがとうございます。
お楽しみ頂けましたでしょうか?
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次回の話はまだ決まっておりません。
ティコアの過去を書くか、話を進めるか悩んでいます。
多分話を進める方向に行くと思います。
ご期待ください。
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