第16話 ゼニスのお茶会
*******************************
ほのぼの回 勇者と魔王と勇者と聖女編
*******************************
暖炉の光に照らされて、揺り椅子の影が、ゆらゆら揺れている。
深々と椅子に座るゼニスは、空中に映し出された異世界の光景を
まじまじと見つめていた。
「相変わらず、ティコアは恐ろしいやつじゃのぅ。
あやつは本当に女子なのじゃろうか?」
映像にはティコアが、魔王をいたぶる姿が流されている。
「まぁ、この様子じゃと魔王の負けじゃのぅ。
ティコアを送っておいて正解じゃった」
ティコアの一方的な攻撃を流し続けてる映像は、
敵が見たら直視できないが、味方から見れば、
敵を追い詰める殺戮兵器が、勝利を確信させるような展開である。
「あっ、そろそろお茶の時間じゃな」
空中の映像を消すと、揺り椅子から立ち上がり、
台所へと紅茶を淹れに行く、地球という異世界を造った神からの贈り物で
飲んでみたところ、その甘味が口に広がり、たちまち虜になってしまったのだ。
そして、茶菓子にはケーキかドーナツと決めているが、これも地球産である。
「まったく、あの神は本当に凄いのぅ。
自分の異世界だけで、特産品をいとも容易く作ってしまうのじゃから」
淹れ終わった紅茶は甘い香りで部屋を包み込み、
緊張をほぐしてくれる。
ゼニスは紅茶とドーナツを
テーブルに運び優雅な一時を過ごす……はずだった。
テーブルに紅茶を運んでる最中に、ふと顔を見上げると、
そこには、見知らぬ女子高生が立っていた。
紺色の制服にスカート、髪は肩を少し過ぎたぐらいに伸びていた。
「……お前さん誰じゃ?」
見知らぬ客人を部屋に招き入れたのは、今日で二人目である。
招き入れたというよりは、勝手に入ってきたという解釈が正しい。
「どっから、入ってきたのじゃ?」
女子高生は、ただ、うつむきかげんで首を横に振るばかりであった。
ゼニスは少々困惑した。
よくよく見ると、この女子高生には顔が、なかったのである。
答えたくても、話せないのか?それとも話したくないのか?
「まぁ、そんなところに立っていても落ち着かんじゃろ!
今からお茶の時間にするから、そこに座ったらええぞ」
女子高生は小さくうなずくと、
ゼニスの年齢に似つかわしくないデザインの
白と金に花柄の彫刻が施された椅子に座りこんだ。
「ちょっと、待っておるのじゃぞ」
しばらくすると、もう一人分のお茶と茶菓子を
嬉しそうに持ってくるゼニスがいた。
「待たせたのぅ……よっこらっせと……
これは、紅茶という物じゃ! なかなか旨い飲み物で儂は大好きなんじゃ」
うんうんと女子高生は頷いた。
「お前さん紅茶を知っておるのか?」
女子高生はさらに頷く。
「はて?そうすると地球産じゃな」
一人で納得しているゼニスだが、イノが来た時の記憶をたどる。
「すっかり、忘れてしまってた。
お前さん死んでおるんだな」
ビクッ!
ゼニスの遠慮のない言葉に
自分が死んだことを認識させられる女子高生。
「あぁ…すまん、すまん。まずは茶でも飲んで落ち着いてくれ」
果たして飲めるのだろうか?
そんな事を考えながら、女子高生に興味を持ち始める。
進められるがままにカップを口のあたりに運ぶ、
飲めた!
女子高生自身も驚いた。
口が無いはずなのに、黒い物体に紅茶が吸い込まれていく。
そして、口の中に甘い感覚が広がると、
食道を通り、胃の中に熱がゆっくり伝わるのがわかる。
「ドーナツも食べてもいいぞ」
紅茶で胃が刺激されて、何か食べ物を欲する。
女子高生は白色にコーティングされたドーナツを取ると
口元に持っていく。
紅茶同様に黒い物体にドーナツは消えていく。
消えた部分は噛まれた跡を残している事から、
見えていないだけで、口は存在しているようだ。
「食べれても話せんとは不思議じゃな」
無駄に関心するゼニスであったが、
これからどうしようと悩み始める。
「これも何かの縁なのじゃが、お前さん、どうしたいんじゃ?」
女子高生はなにか右手を必死に動かしている。
「おぉ、書くものじゃな、待っておれ」
ゼニスは紙と羽ペンを用意し、女子高生に渡した。
紙に何か書き始める女子高生。
”異世界に行きたい”
「異世界のぅ……どこの異世界がいいのじゃ?
地球という異世界じゃだめなのかのぅ」
うんうんと頷く女子高生。
「はて、困ったのぅ、儂の作った異世界ならすぐ行かせれるのじゃが……」
女子高生はまた何か書き始める。
”そこでいいです”
「そこでええのか? じゃぁ、ちょっくら準備してくるかのぅ」
ゼニスが部屋の奥へと消える。
その間、女子高生はドーナツを堪能していた。
久々の人間らしい食事。
人類が造った至高のお菓子を一口、一口、噛みしめていた。
「異世界に行って、何か考えがあるのかのぅ?」
女子高生は首を横に振る。
「ふむ、それじゃったら、ちょっと前に来た
同じ地球産の神がおるのじゃが、そやつのところに送るでいいかのぅ?」
女子高生は少し考えてうなずく。
「そしたらこの箱に入ってくれぬか?」
ゼニスに言われたとおり、箱の中へ入る。
「あっ、お前さん、いったん、生まれ変わるかも
しれんけどええかのぅ?」
今度は頭を抱え込んで難色を示す素振りをする。
「生まれ変わると言っても、あれじゃ、お前さんの顔がないから
一度、赤子に戻るだけじゃ、そしたら多分、顔は出来上がるはずじゃ」
うんうんと頷く女子高生。
「それじゃぁ、始めるぞ」
異世界に送る為の呪文を詠唱し始める。
魔法陣が展開され、ピンクのモヤが魔法陣を包み込む。
ピーガガーーァ!
「大賢者!」
頭に声が聞こえるが今は呪文に集中するゼニス。
「大賢者!」
「うるさいやつじゃのぅ……あっ……呪文中途半端で送ってしもうた。
まぁ、赤子から始まって二~三日で戻るから大丈夫じゃろ。
手紙にでも書いとけば、気づくじゃろうし」
ピンクのモヤの中に書いた手紙を放り投げると、
「神ゼニス様」
おっ! とした顔で、呼ばれた方を振り向く。
頭に輪っかを乗せて、羽の生えた娘が深々と頭を下げている。
「今日は千客万来じゃのぅ」
「突然のご訪問申し訳ありません。前に確認した件なのですが、
回答が貰えていなかったため、訪問させて頂きました。
本日から『天上界の宴』が
開催されますが、ご出席になりますでしょうか?」
「おぉ、すっかり忘れておった。今回は出席するのじゃ」
「かしこまりました。そうしましたら、後、十分ほど開催となりますので
急いで会場に向かって頂けますでしょうか?」
「早いのぅ、忘れてた儂も悪いのじゃが……
わかった、すぐに向かうとする。」
「はい、承知しました。それでは、失礼します」
急いで支度しないと……その前に
異世界の映像を映し出し、状況を確認する。
イノは忙しいそうじゃのぅ。
荷物を送った事はティコアに伝えてるとしよう。
「あぁ、儂じゃ、すまんが荷物と手紙を送ったから、
イノに渡しておいてくれ」
「はい、わかりました」
言いたい事だけ言い終えると、通信を切り、早々と支度をする。
「あっ……忘れておった」
手紙をすらすらと書き、再度、ピンクのモヤを呼び出すと、
手紙を放り投げ、ゼニスは『天上界への宴』へと意気揚々と出発したのであった。
*******************************
ここまで、お読み頂きありがとうございます。
お楽しみ頂けましたでしょうか?
気にいって頂けましたら、フォロー、コメントお願いします。
次回の話はまだ決まっておりません。
思いつき次第作成したいと思います。
ご期待ください。
*******************************
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます