第4話 大賢者とは?

 頭に響くノイズが消え、声が聞こえ始めた。


「……か? ……し……んだか?」


ところどころ、ブツブツ途切れて聞き取りずらい


「あのぉ、すみません、良く聞こえないので、もう一回お願いします」


プツン!


テレビの電源をきった時のような音がして、


音が消えてしまった。


「あのぉ、大賢者! 大賢者様!」


ブォン!


頭の中に先ほどと同じ起動音みたいなのが鳴り響く。


「おぉ、戻ってきた! 何とかセーフだな」


ピーザザァ!


今度は、はっきりと声が聞こえた。




 「儂を呼んだか?」


「うん?」


どっかで聞き覚えがある声だ。


「あのぉ、大賢者様ですか?」


「何を言っておるのじゃ! 儂じゃ!異世界神ゼニスじゃ」


まぎれもなく、ゼニス爺の声がしていた。


「……ゼニス爺ちゃん、今まで何をされていたのですか?」


少し棘のある言い方で、神に問いかける。


「また、儂をそんな呼び方しおって」


「じゃぁ、大賢者様」


「神から格下げにしおったな……う~ん、まぁよい


好きに呼ぶといい」


「じゃぁ、爺ちゃんで! それで、こっちが困ってる間、


何をされてたのでしょうか?」


まぁ、こっちに来た理由は、アホ犬がモヤに突っ込んでたせいもあるが、


この神様モドキが、何をしてたのか妙に気になってしまった。


「儂は、ずっと君の様子を見ていたのじゃよ」


「はっ?……」


「だけど、犬の散歩をしたり、そう思ったら、発声練習みたいな事をしたり


最後は寝てたもんだからなぁ、大丈夫じゃろと思って、今、ドーナツで紅茶をいただいてたところじゃ」


「こっちは、帰るのに必死だったのに連絡くらいくださいよ!


それで帰り方なのですが……」


「無いんじゃなぁ……」


征太が言い終わらないうちに、ゼニスは答えを出した。


「無いって、全知全能万能を謳ってじゃないですか?」


「いやぁ、そのぉ、なんじゃ、昔はちゃんとあったんじゃがな……」


「今は? どうなったんですか?」


ものすごく、嫌な予感がするが聞かずにはいられない。


「魔界神が全部潰してしまったのじゃ……」


えっ?何言ってるの?この賢者。


「じゃぁ、そっちには、もう、戻る方法がないのですか?」


ゼニスの回答に焦りを隠せない征太は、なおも問い続ける。




 何のスキルも与えられず、チートすらない世界で、


頼りになるのが、アホ犬とこの神モドキだけとは、


死ねと言ってるようなものだ。


「方法あるんじゃよ」


「あるんですか!じゃぁ、それを実行すればいいだけですね」


「うむ、まずは神の力を身に着けるのじゃ、そして、魔界神を


倒して、最後は自身も浄化すれば、こっちに戻ってこれるのじゃ」


本当、何言ってるの?この賢者。


「あのぉ、神の力を付けるのもわかりました。魔界神を倒すのもわかりました。


最後の浄化って何ですか?」


「君が死ぬ事じゃ!」


どっちみち、死ぬんかい!


本当、神様モドキだな……


「じゃぁ、死なない方法はありませんか?」


「まぁ、異世界を旅してれば、もしかしたら出てくるかもしれからのぅ……


まずは、神の力を身に付けることが先決じゃな。


おぉ、忘れておった! 君はまだ、神様の見習いにすらなっていないから、


まずは見習いにならんとな」


「おっ! それは見習いになれたら、ステータス画面とかでてくるんですね!」


「ステータス画面?何を言ってるんだ君は?」


どうやら、自分の知ってる異世界ではないという回答が突き付けられた。


「いや、何でもないです! 今のは忘れて、続けてください」


さよなら、俺の知ってる異世界。


「ふむ、まず儂が命名すればそれですむのじゃが……」


「はっ?」


流石に呆気にとられた。


「ゴッドネームは何にしてほしいのじゃ?」


「ゴッドネーム?」


「異世界神 征太とかすぐ滅びそうじゃないか?


しかも、異国の文字の名前だし、あんまり布教しそうにないじゃろ」


結構、形から入る宗教なんですね。


「えとじゃぁ…」


「良し決まった!」


この神様、まったく意見を聞きそうにないな。


「イチノセ セイタだから……


君の名前は今度から、神 イノじゃ」


うん。セイタどっかに消えていったね。


「よし、早速、神見習いの承認儀式を始めるぞ」


”我が名は異世界神 ゼニス、星々の神々たちよ耳を傾けよ”


”遥か混沌の地より生まれし、古の理をもって、我が命により”


”人の子、一之瀬 征太を神 イノとする”


”汝の理を持って世界を創造せよ”




 頭の中に魔法詠唱みたいなのが流れてきた。


それと同時に幾多の声が、耳元で囁く。


”認めよう”


”認めよう”


”認めよう”


”認めよう”


その言葉が、聞こえなくなるとゼニスが話始めた。


「おめでとう、これで少なくとも見習いになれたわけじゃな」


「何も変わってないんですが……」


「気にせんでも、これからわかる事じゃ!」


不敵な笑いをしてるのが容易に想像できたが、


これからわかるという事は、一体どういう事だろ。


「とりあえず、そこから丘が見えてるはずじゃ、


まずは、その丘を越えたところに湖があるから、


そこを目指すのじゃ」


そう言い終わると、通信はプツンと切れて


ゼニスの声はしなくなった。


イノは言われたとおりに湖を目指して、足を進め始めた。

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