勇者と魔王と勇者と聖女編

第14話 勇者あらわる

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ギャグ・コメディ回 勇者と魔王と勇者と聖女編始まりです。

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 魔王が倒された直後、かたずを飲んで見守っていた都市の住人達から


歓声が沸き起こった。


いつの間にか外壁にまで押しかけていた住人達は、


その光景から目を離すことができなくなっていた。


イノは沸き起こる歓声の中、割り切れない様子でいる。


「ティコア、そろそろ下に降りないか?」


「そうですね」


下に降りると、先ほどまで丘に居たゴンタが全力で走ってくる姿が見えた。


「本当に終わったんだな……」


まだ微かに光る粒を見ながらイオが呟く。


「はい、何とか勝てましたね」


うん?何とか勝てた?


横を見ると変身の解けたティコアが立っていた。


心配そうにイオの顔を見ている。


「イオ、顔の傷は大丈夫ですか?」


否否否否、おかしいよ。


この傷を作った人は、心配している貴方なのですが…


あのバトルスーツは記憶力を原料に動いているのか?


「ご主人!」


不意にゴンタが現れる。


「ゴンタ!」


イノにとっては無事で何よりな心境だった。


「ワイのお肉消えたの! まだ三口しか食べてないのに!」


この犬にとっては主人の心配より、肉が食えなかった方が重大らしい。




 外壁の門が開くと三人の男たちが馬を走らせ、イノたちのところへと向かって行った。


「ご主人!」


「うん?どうした?」


「お肉にお肉が乗っかってくる」


「はっ?」


「お肉……ジュル……」


そういえば、このアホ犬このサイズになってから、


人に会うのは初めてだな。


「ゴンタ、食べちゃ駄目だからな……」


「でもワイお腹が……」


「ゴンタちゃん……イノに迷惑かけちゃ駄目でしょ?」


「ハイ」


背筋を伸ばし、キリリッとしたゴンタを見た時、


心底、ティコアを恐れているんだなと悟った。




 「あのぉ、すみません!」


馬から貴族風の格好をした、男が声をかけてきた。


「何か用ですか?」


ティコアがイノに変わって応対をする。


男は緊張しながら、イノたちに会いに来た理由を言い始めた。


「先ほどの怪物たちを退けて頂き、国民一同、感謝の極みです


つきましては、是非、我が国の王に会って頂けないでしょうか?」


ティコアがイノに申し出をどうするか? 目で合図を送る。


一瞬、迷ったイノであったが、自分が異世界を管理するうえで


国の様子を見ておいても問題は無いだろうと、承諾する事をティコアに伝えた。


「わかりました。これも何かの縁あっての事、国王様にお目通りさせて頂きたいです」


「おぉ、ありがとうございます! では、早速、国王様に伝えてまいります!


後から、ついてきてください」


そう伝えると颯爽と外壁の方に引き返し始めた。


「ゴンタちゃん、私たちを乗せて、あの人をおかけてほしいなぁ」


「ハイ、わかりました! ティコアさん」


あっ、この犬、とうとう『さん』付けで呼び始めた。


ティコアを恐れるのは動物の本能なのだろうか……?




 「城についたらどうするのですか?」


「あんまり、考えてないかな!」


「忠告しておきますけど、神様って言うのは避けたほうがいいですよ」


「どうしてだ?」


「いきなり相手が『自分は神だ』なんて言ったら、


どうなるかわかりきってると思いますが……」


「明らかに頭のおかしいやつになってしまうな……」


「それに仮に信じたとしても、相手の出方がわからないうちに


手札を見せるのは愚行ですよ!」


「それも、そうだな。わかったよ!」




 「ゴンタはここで、お留守番な」


「ご主人……夕飯は持ってきてくれよ!」


「腹が減ったからって、お肉は食うなよ」


「むぅ……じゃぁ、ワイは疲れたし、寝て待ってる」


ゴンタを外壁の外に置いて、門をくぐり抜けると、


怪物たちを追い払った者を、一目見ようと人だかりが出来ていた。


「勇者様だ!すごい、本物の勇者様だ!」


「まだ若いのに、なんて勇ましいんだ!」


「勇者様!万歳!万歳!万歳!」


人々は歓喜に満ち溢れていた。


城に向かう最中に、どれだけの感謝を受け取った事か、


今まで生きていて、こんなにも感謝されたことは無いな。


イノは悪い気はしなかった。


城に辿り着くと、兵隊たちが全員一列に並び、


跪き深々と頭を下げ、イノたちを出迎えてくれた。


その中心に一人、こ洒落た格好をした男が話を始めた。


「この度は我が国の存亡をお救い頂き、感謝しきれないほどであります


我が国の兵隊たちでは、この国は滅びていたでしょう。


誠に誠にありがとうございます」


「いえ、そん……」


イノが答えようとすると、貴族風の男が大きな咳払いをした。


「オホン!」


「王様、そろそろ中の方へ」


「それもそうだな大臣。さぁ、勇者殿、どうか我が城でおくつろぎ下さい」


王に託されるがまま城の回廊を通りながら、話の続きをする。


「ところで勇者殿の名はなんと申すのだ?」


「あっ、別にゆ……」


「オホン!」


イノが話そうとすると、またもや大臣が咳払いをする。


そして、イノに耳打ちをする。


「王は勇者殿に聞いておられるのです! 従者の貴方にではありません」


はっ?従者?俺がティコアの従者?


どこをどうすればそうなる?


というか何でお前が勇者かどうかを決める?


「して、名は?」


再度、王がティコアに聞き返すと、


「ティコアです」


サラッと答えてしまうティコアであった。


「おぉ! 勇者ティコア殿か、可憐な名に負けないくらいの


勇猛果敢な戦いぶりだったと聞いておる」


「はぁ……ありがとうございます」


もぅ、ティコアは、流れに身を任せてるようだ。


「従者殿も勇者殿に仕えられて、さぞかし幸せでしょう」


大臣が揉み手をしながら、あらか様に褒めてくる。


「ハハ……そうですね。僕は何て幸せなんだ」


これは、どうしようもないと諦めてイノも


流れに身を任せることにした。


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ここまで、お読み頂きありがとうございます。

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次回、ゼニスの贈り物をお届けします。

ご期待ください。

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