第6話 これが神獣?

 何かザラザラしていて、柔らかい物が顔に当てられ、


目の前を暗闇に包む。


「微妙にくっさ」


変な臭いが鼻にまとわりつく。


何なんだこれは?


イノがそんな事を考えていると、


頭上から声が鳴り響いた。


「我は破壊と創造より生まれし、銀灰の王……」


まさか、魔界神の手先か?


俺は今、その銀灰の王に抑えつけられているのか?


くそっ、周りが花畑だったし、気配も感じなかったから、


完全に油断した。


例え、神になったと言えども所詮は見習いのイノ、


自分の置かれてた状況の中で最善の方法を考え出す。


「大賢……」


銀灰の王は続けて叫ぶ。


「名はゴン……シルバーカイザーウルフだ」


「はっ?」


一瞬にして緊張が解けた。




 シルバーカイザーウルフと名乗った正体が、


言い間違えでゴンまで聞こえてそいつが誰かもわかった。


そして、この微妙に臭い、


顔覆っている物体が獣の足である事もわかった。


イノは拳を作り、肉球と肉球の合間にねじ込んでいく。


グリグリグリッ!


「キャイン! ご主人痛いです。やりすぎです。」


やっぱり、こいつわかってて、俺の顔に足を置きやがったな。


「ひどいです。ご主人、愛犬の肉球の間をグリグリするなんて!」


「やかましいわ! てか、いつからしゃべれるようになった?


なんで、そんなでかくなってるんだよ?」


「そんな……覚えてないんですか?こんな体にしたのは、


ご主人様なのに……」


「はぁ?」


ゼニスもゼニスだが、ゴンタもゴンタだ。


一体、俺の周りはどんだけアホに囲まれてるんだ?


そう悩んでいると少女が話しかかてくる。


「あの、こちらの神獣はイノ様のペットですか?」


「神獣?!」


何を言い出してるんだ! いくら、このアホ犬が、


でかくなったからと言って、神獣なんて呼び出したら、


神獣さん達に失礼じゃないか。


「はい、この大きさ、立派な銀灰色の毛並、


そして、鋭い眼光、全てをかみ砕く牙、どこから見ても


立派な神獣ですよ! それで、お名前は何というんですか?」


「シル……」


「ゴンタ!」


ゴンタは、よほどこの名前が嫌らしい。


「ゴンタちゃんですか、これからよろしくね」


ゴンタはアホ面のまま、ただ頷いていた。


「ゴンタが大きくなったのは後回しで、


さっき名前を聞きそびれたのだが……」


「あっ、私はティコアです」


「ティコアさんか……」


「ティコアでいいですよ、イノ様」


「俺の『様』もいらないぞ、じゃぁティコア、


お世話係と言っていたが、一体どんなことを


ゼニス爺に頼まれてきたんだ?」


少女は俯きながら、恥ずかしそうに語りだす。


「はい、私は昔、天界軍 参丸弐 高機動支援部隊に所属をしていて、


フルバトルサポートエンジェルのティコアと呼ばれてました。


それで、部隊が解散してしまい、そこをゼニス様に拾われて、


フルバトルサポートメイドエンジェルとして、ゼニス様の元で


働いていたのですが、ゼニス様の大切な物を壊してばかりで、


あまり仕事が貰えなかったのです、だけど、こうして、イノ様の元に


送られてきて、ようやく、ティコアも」


「へぇ、そうなんだ。これからはよろしくね」


あのぉ爺、自分のところで手に負えないから、


俺に押し付けやがったな。


「はい、一杯、イノさ……イノのために頑張ります」




 ティコアまだ良さそうだ。


問題は、あのでかくなってしまったアホ犬だ


一体、どうしてゴンタは、大きくなってしまったんだ?


「ティコア、ゴンタはさっきまで、自分とあまり変わらないほどの


大きさだったんだ。なぜ、こうなったのか、何かわかるかい?」


ゴンタは陽気に蝶を追いかけて、遊んでいる。


ただ、走るたびに凄い振動がこちら側まで、伝わってくる。


「あれ?これ、神獣おやつじゃないですか?」


ティコアがおもむろに拾い上げた紙袋は、


先ほど、ゴンタにあげた茶色の紙袋に入っていた、ペット用おやつだった。


「何それ?」


「自分のペットを神獣化させたい時に、食べさせる物ですよ。


神様の間では結構、有名なお菓子ですよ」


あのぉ爺、結局あいつが原因じゃねぇかよ!


「それで……元に戻るの?」


「一度、神獣化させたら……元には戻れないと思います」


頭が痛くなってきた。ただでさえ、食糧不足なのに


あの大きさになったら、どのくらい食糧が必要なんだ。


「ねぇねぇ、ご主人、見てみて、ワイ火吹けるようになったんだよ」


口を高く空に突き上げると、一気に噴き出した炎は、


周りに熱波を生み出し、ゴンタの周りの花は一瞬にして萎れてしまった。


炎吹いた後のゴンタはアホ面で、こちらを見ている。


「駄目だ……もぅこれ以上、何も起きないでくれ」


悩んでいるイノを元気づけようと、炎を吹いたが、


それは余計に、自分の主人を悩ませるとは、


ゴンタは微塵にも考えていなかった。




 一行はゴンタに乗り、丘の向かいの湖を目指すために


歩み始めた。


「ゼニス様に聞きましたけど、湖の畔には妖精の村があるんですよ。


きっと、イノ様をそこに向かわせたいんですね」


ニコニコしながら話すティコア。


しかし、丘を登りきると、そこには見た事のないような


怪物が湖に向かって進軍していた。

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