第5話 いでよ!バックパック!!

 ゼニスに言われて、花畑から見えている


丘を目指し、進んでいたが、一向に着く気配はなかった。


ギュルルルルル。


何も食べてないし、喉も乾いて、これ以上、動くのが億劫になってきた。


「爺ちゃん!」


反応がない。


「ゼニス爺ちゃん!」


やっぱり、反応がない。


「大賢者!」


ブォン。


なんで大賢者で反応するんだ……


「なんじゃ、呼んだか?先刻話したばかりじゃろ」


しかも、悪態までつく、この、大賢者をどなたか交換してください。


イノはそんな事を思いながら、腹が減っている事を告げる。


「いや、腹が減って喉が渇いて、さすがに限界だから、


何か食べ物は無いかと……」


「なんじゃ?そんな事か!」


おっ、すんなり、解決方法がありそうだな。


「全知全能万能の神になったんじゃから、花でも食っておればよかろう」


「どこの世界に、花食って過ごしてる神様がいるんだ?


せめて、人間が普段、口にしている物を食いたいのですが!」


「我がまま奴じゃのぅ。ちょっと、待っておれ」


ガサゴソと何かを探している、音が聞こえてくる。


「どこにしまったかのう?……あぁ、そうじゃ思い出した。


ちと、まっておれ」


そういうと、一方的に通信は切れた。




 通信が途絶えて、三十分ほど経過しただろう。


未だにゼニスからの返答は無い。


何度、呼びかけても通信が再開される気配も無い。


そんな退屈な時間を癒してくれるのは、


アホなゴンタ君が、蝶を追いかけて一人で遊んでるのを


眺めていたおかげでもある。


ブォン!


「あぁ、聞こえてるか? 今、食糧送ってやったからな


頭に気を付けるんじゃぞ」


「はっ?」


上を見上げると、水平に光り輝くモヤがでていた。


そこから、何かの物体が自分めがけて、落下してくる。


「あぶねっ!」


ドサッ!ドサッ!


間一髪でよけるとその物体は、


人ひとりは持ち運べる大きさのバックパックが、二つ転がっていた。


「とりあえず、食えそうなものを送ったからのう。中身を確認してくれ」


「どれどれ」


一つ目のバックパックを開けると、


中には液体の入った瓶と、食糧ぽい食べ物が詰まった紙袋が数点入っていた。


他にもフライパン、鍋、ランタン、皿、コップ、折りたたみ椅子などが入っている。


「ゼニス爺ちゃん……」


「どうじゃ、便利そうだろ?」


「これ、完全にキャンプ道具じゃねぇか!」


「失礼な! 緊急事態が起きた時の避難道具じゃわい」


「そこの世界が緊急事態だったら、もう逃げ場所ないだろうが!」


「まぁ、それもそうじゃな」


この神モドキは、本当に大丈夫なのだろうか?


そんな事を考えつつ、一つ目の紙袋を開けると、


中から、無臭のクッキーぽい物がでてきた。


一つ手に掴み、口に頬張ってみる。


モシャモシャ……ゴクン。


「ゼニス爺ちゃん……まったく味がしない固形物があるのだが……」


「何色の紙袋を開けたのじゃ?」


「えと、茶色かな?」


「あぁ……それは、ペット用のおやつじゃな」


「早く言えよ、食っちまったじゃねぇか!」


「確認しないで、食うお前さんが悪いんじゃろ!


とりあえず、腹を満たしたいなら、黄色の紙袋のやつじゃ」




 黄色の紙袋をあけると、エネルギバーみたいな物が入っている。


口に含めると、先ほどとは打って変わって、


甘い芳醇な味と香りで舌を唸らせる。


「う、うまい」


思わず口に出してしまうほどのおいしさである。


「そうじゃろ、そうじゃろ」


「瓶に入ってる物は飲んでも、大丈夫なのか?」


「大丈夫じゃ!」


ゴクンゴクン!


渇いたのどを潤してくれる、


謎の液体は体中に浸透していくのがわかるほどである。


ゴンタもその様子を見て尾を振りながら、食い入るように見つめてくる。


「お前はこっちだ」


茶色の紙袋からクッキーをゴンタの前に広げると、


ゴンタは一心不乱に貪り始める。


「それで、こっちのバックパックは同じ物なのか?」


「あぁ、それはじゃな……」


ゼニスが言い終わる前に、


イノはバックパックを開けると……そこには、


頭に光の輪っかを浮かせて、羽を生やした、


さながら天使にも見えなくはない、少女がいた。


「爺! 俺は食える物を頼んだんだぞ!」


「いや、まぁ、別な意味で喰えるじゃろ……


まぁ、童貞だから喰い方知らないかもしれんが」


「そういう意味じゃねぇ、こんなの送り付けて


どうするつもりなんだよ」


「まぁ、待て。儂も昼夜問わず、イノに答えられるわけじゃないからのぅ、


儂の代わりを務めてくれる、お供というやつじゃ」


「はぁ……」


そんな、やりとりをしていると、少女が目を覚ました。


目をこすりながら、こちらを見ると、寝ぼけ眼で自己紹介を始める。


「初めまして! ゼニス様の命により、イノ様のお世話係を


申し付けられました」


「はぁ……初めまして、神のイノです」


「貴方様がイノ様ですか……それで、そちらのお方は?」


「はっ?」


少女の視線はイノの頭上を越えて、空を見上げている。


後ろを振り返ると、顔に謎の物体が押し当てられたのだった。

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