第18話 妖精王の忠告

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ギャグ?コメディ?回 勇者と魔王と勇者と聖女編

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 会った事は無い、だが私はこの天使を知っている……


数百年妖精の村で語り継がれてきた……伝説の天使。


その方が、今、間違いなく私の目の前に立っておられる。


でなければ、いち天使などにこのような無様な格好など絶対にしない。


人間たちには見えない、あの翼と、頭に浮かぶ輪っか。


青みがかった髪に背中の赤いバックパック。


天使に与えられるはずのない、単騎で膨大な力を退ける戦闘力。


地形を変えるほどの高威力な何か。


後は、名前だ。


大臣からは『勇者ティコア』と教えられたが、


名前など、どうでも良いと聞き流していた。


まさか、『殺戮の覇者 マンティコア』だと露知らず。


なぜ、また数百年たって降臨してきた?


魔王を倒すためだけか?


今度は世界を滅ぼすために来たのか?


いずれにしろ、平穏な生活は一変するだろう。


地べたに頭を擦り付けながら、目まぐるしく妖精王が考えている。




「どうか、お立ちになってください。


王を名乗る者が床に頭などつけてはいけませんよ」


「こ、これは失礼をしました」


颯爽と立ち上がる妖精王。


「その、外見から判断するに天使と見受けれらますが……」


「そうです! 魔王を倒したら、


成り行きで勇者扱いになってしまいまして、王様も驚かされて


しまいましたか?」


「そうですね、勇者ティコアと聞かされてましたので、てっきり人間かと


思っておりました。ところで、以前にこの世界に来られたことがあるのでは?」


「もぅ、ずっと昔の話ですよ」


「その時も……魔王と似たようなものと対峙されてないですか?」


「はい、その時はどうしても、戦わないといけなかったので」


あっさり認めるティコアだった。


あぁ、やっぱりそうなのか。


思った通り、ティコアは伝説の天使であったと、


自分の恥を妖精たちの前で、さらけ出してでも、


妖精たちが失態を犯して、殺されるよりは対応として問題なかったと、


確信した妖精王であった。


「ですが、天使がなぜ、またこの世界に従者を連れて降臨されましたか?」


妖精王は、イノの事をまだ天使にすらなれない者を、教育するために連れてきたと考えていた。


「オホン、妖精王殿だからお伝えしますが、あの方は我が主、神イノ様であらせられます」


「いっ!!!!!!!」


妖精王の和んだ顔が再び、引きつり、血の気が引いて行く。


即座に地べたに頭を擦り付け、謝罪をし始める。


「今の失言をどうか、どうかお許しください!」


「へっ?」


「まさか神だと露知らず、己の浅はかな言動でイノ様を


侮辱した行為を今は、ただ恥じております。何卒、何卒、お許しを!!」


伝説の天使の次は神様だと……一体何が起こっているんだ。


しかも、この神様、全然威厳がないから、本当に従者だと勘違いしてしまった。


まさか自分の世代で格上の者に立て続けに出会うとは……


「あっ、いや、王様どうか立ってください。私は権力者たちを


ひれ伏させるために、この世界に降りたのではないので」


イノは優しく妖精王に伝える。


「ではどうして来られたのですか?」


顔を上げて、イノに尋ねる。


その問いに弱ったなぁと素振りで頭を描きながら困惑顔になっていく。


「し、失礼しました。何か大事な用があるとお見受けしました。


決して、神の意向に逆らおうというわけではありません」


妖精王は機嫌を損ねたのではと弁明を始める。


これは弱ったなぁ、どんな人か見てみたかっただけなのに、


こうも、かしこまられるとやり辛いな。


もぅこの際だから、はっきり伝えてしまおう。


と考えるイノ。


「私はこの世界を創造するにあたって、本当に相応しいかどうかを


世界を見て回りながら決めたいと思い、こうして地上に降り立ったのです。


ですから、妖精王殿は自然に自分の職務を自然に真っ当して頂ければ、


私は何も思いませんよ、ただし、どうか私の事は秘密にしておいてください」


「はっ、かしこまりました!」


イノは少しばかり気持ちが良かった、自分より年上の者が


ぺこぺこと会釈をして、自分の機嫌を必死に取ろうとする姿を


生きてた時も含めて、未だかつて味わったことがなかったからだ。


「どうか、今日は妖精村にお越しください。村をあげて、イノ様とティコア様を


ささやかですが、歓迎させて頂きます。」


「あっ……わかりました」


イノは少し考えたが妖精村に興味がわいたため、


その願いを承諾した。


「では、早速、準備したいと思いますので、これで失礼させて頂きます」


「はい、あの、ところで妖精王殿のお名前は?」


「これは失礼いたしました。我が名は妖精王バンスです。


バンスとお呼びください。イノ様」


「わかった。これからはバンスと呼ぶからイノと呼んでくれ!」


「それは……恐れ多い事で……神を呼び捨てにするなど……」


「バンスさん、イノが良いと言ってるから、良いのですよ」


「わかりました。それではイノ、今日の夜にお会いしましょう」


扉は静かに閉まり、バンスは部屋を後にした。




 バンスは部屋を出てから、心中穏やかではなかった。


人間たちが重大な勘違いをしている事で、神の怒りを買うのではないかと


内心ヒヤヒヤしながら、王への取次ぎを申し出ていた。


幸いなことに、すぐに謁見されることが決まり、玉座へと早足で向かう。


玉座には王、大臣、近衛兵が待っていた。


「これはこれは妖精王殿、久しぶりですな」


「人間の王よ! 挨拶を抜きに早急にお伝えしたいことがあるので


人払いを頼みたいのだが……」


何やら、只ならぬ気配を察知した王は、近衛兵たちをさがらせた。


「大臣もお願いしたい」


さらにバンスは要求する。


「妖精王よ、大臣は余の不在時に国を代わりに仕切る者ですぞ」


「今は王にだけ伝えたいのです」


バンスは引き下がらずに大臣の退出を願い出る。


「大臣、下がれ」


「王よ私も……」


「下がれ!!」


またもや退出を命じられる大臣であった。


「して、妖精王よ、人払いまでさせる話とは?」


「人間の王よ。勇者をどう考えておりますか?」


「ふむ、大臣と話し合ったが、あの者たちに国に永久に過ごしてもらおうと考えている。


さすれば、この国も安泰だし、怪物どもが来ても、妖精王は心配しなくて済むだろうと」


「なるほど、やはりそうでしたか……」


「何か気がかりな事でもあるのかね?」


「いえ、あの者たちはこれから世界を見て回りたいと申しておりました。


それを無理に引き留めるのは、愚行かと思いまして」


「なるほど、しかし、他の国にあの戦力を持っていかれたら、


我が国はすぐに滅びてしまうぞ?」


「そのようなご心配はありません、あの者たちにそのような


邪悪な心は感じ取れませんでした」


「そうであるか、では再度大臣と話して……」


「その大臣ですが、認識を改めたほうがよろしいと忠告しておきます」


「なぜなのだ?」


「今回、イノ殿を従者扱いしておりましたが、とんでもありません。


あの方は……」


その時、バンスは思い出す。


イノが神である事を秘密にしておいてくれと。


「どうしたのだ?」


口が止まってしまったバンスに王は問いかける。


「誰かいないか?イノ様について教えてくれ」


バンスが小さく囁くと耳元に妖精たちが集まってくる。


妖精たちは自分たちが見た、イノの人物像を事細かに伝えていく。


情報が揃うとバンスが王の問いかけに答える。


「あの者は神獣使いにして、大魔術師です。私は大臣の言葉を信じ、


その事を口にしてしまい、大変、恥をかかされた!」


「そうであったか……あい、わかった。


大臣の処分は任せておいてくれ」


うん?処分?私はそこまで頼んだつもりはないのだが


いや、しかし、遅かれ早かれ、あの態度では


イノ様の堪忍袋がいつか切れてしまうだろう。


そうなれば、間違いなく今度はこの国にキノコ雲が立ち上り、


妖精、人間問わず、門の外にいる神獣の餌とされるだろう。


そうならないようにする為には大臣の処分もやむ得ないだろう。


「では私の話はこれで終わりました。失礼する」


「うむ、妖精王殿、確かに貴殿の忠告を聞き入れましたぞ」


王はバンスを見送ると大臣の処分をどうするか、考え始めた。




 夕方ぐらいに妖精村より使者がイノの元に来た。


歓迎の準備が整ったので、是非、妖精村にお越し願いたいと


使者は伝える。


イノはティコアと幼女を連れて、使者の案内の元、


妖精村に向かうのであった。


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次回 勇者と聖女

ご期待ください。

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