いざ異世界へ編
第1話 ここどこ?僕どうなったの?
「あ、あの……すみません」
恐る恐る、声をかける少年。
「グオオオオ、ゴゴゴゴゴ」
口半開きに開け、涎を垂らし、鼻提灯を作り、
いびきをかいて寝ている老人は一向に起きる気配がない。
えっ…本当に鼻で提灯作れる人いるんだ。と考えながら、
今度は老人の肩に手をかけ揺さぶりながら、声をかけてみる。
「あのぉ、すみません……起きて頂けませんか」
「ふにゃぁ?」
半開きの眼は、まだ夢から覚めきっていない様子で
ぼんやりと老人の視界を良好にしていく。
老人がこちらに顔向けると、ギョッとした目つきに変わり、
パチン!
鼻提灯が割れた。
「お前誰じゃ?!なんでここに居る?」
身をすくめる老人。
「えっ?いや、何でここに居ると言われましても……
道を歩いて、道路に飛び出た犬を捕まえたのまでは覚えているのですが……」
答えに戸惑う少年。
「はぁ~~ぁ?!」
何か心当たりがあるような素振りをする老人。
「あ~ぁ、ちとまっておれ」
そういうと、老人は空中に手をかざす。
何もない空間に光が円状に輝き現れた。
「えっ、えっ?」
自分がいるところが普通の場所ではないと悟る少年。
老人はその光に手を差し込むと、一冊の薄っぺらの本を取り出した。
「え~ぇと、どれどれ……わっ、また増えてるじゃん!」
一人でブツブツ言いながらページをめくっていく老人。
「あっ、いっけねぇ、名前聞くの忘れてた」
本から顔を上げて、こちらを見てきた。
「えと、じぶ……」
「あぁあああ、良いから良いから、何も喋らなくていいから――
鑑定!」
途端に老人の目はヘッドライトの輝きだし少年を照らす。
「まぶしっ」
思わず顔そむける少年。
「えと、一之瀬 征太、出身国日本、死亡国日本、死亡時年齢十七歳、
彼女いない歴年齢プラス童貞と……10382ページねぇ……」
「童貞は余計な情報ですよね!」
本当の事を言われて、とっさに突っ込みを入れてしまった征太。
「あぁ、いいからいいから、人生いろいろだから、
あんま気にしなくてよいのじゃ。
君の前にそういう娘がいなかっただけの話じゃからな、
まぁ、いたとしても童貞だったのに間違いはないはずじゃ」
そんな事を言いながらページをめくっていく老人。
少年は、そんな薄い本のどこに一万ページもあるのかと尋ねたかったが、
話しかけると老人に流されてしまうので、作業を見守ることにした。
「えと、何々……日本のごく平凡な家庭に生まれて、ごく平凡な学生時代を過ごす、
人生の最後は飼い犬を守るために、道路に飛び出してトラックに轢かれてジ・エンドか」
それを聞いた征太は、自分が死んだことに気づかされる。
「つまらん人生じゃな、女子も知らないで死ぬとは……実に悲しいのぅ」
「いいんですよ、僕の人生は終わってしまったかもしれないけど、
せめて、ゴンタを救えたんだから!」
その言い草に腹がたち、涙目になりながらも言い返す。
「いや……君の飼い犬はそこにいるじゃないか」
「へっ?」
老人が指差した方向に目をやると、口を半開きにし、涎を垂らし、鼻提灯を作って、
寝そべっている、白と灰色の毛並のゴンタがいた。
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