第2話 あんた誰?
「えっ?えっ?なんで?
死ぬ間際に助けたんじゃないのか僕は……」
助けたはずのゴンタが涎をたらしてグゥすか寝てるのを見ると
ものすごく無意味な行動をしたんじゃないか、と考え始めた。
「えぇと、なになに……あっ、しまった
あの犬を見ないといけないのか……鑑定!」
老人はそう言いながら、また両目からまばゆい光を放ち、
犬に怪光線を当てる。
「なになに、一之瀬 ゴンタ 出身国日本、死亡国日本、死亡時年齢三才、
子孫五十五匹と……主人と違って非童貞と、中々凄まじい犬じゃのう。
死因は一之瀬 征太に路上で投げられたところ、対向車に弾き飛ばされ
電柱に激突、しばらく生きておったようじゃのぅ……」
「えぇ……」
俺が投げ飛ばした結果、死んでしまったのかよ。
しかも童貞で死んだ俺に対して、
主人置いてけぼりにして、いつの間にそんな楽しんでたんだ。
てか、苗字まで何でついてる。
自分の飼い犬に驚きの視線を投げる征太。
「ところで、あの犬もだが、君もどうやってここに来たのじゃ?」
不思議そうにこちらを見る老人。
「説明のしようがないのですが、気づいたら、ここにいたんですよ」
「はてっ…」
頭をポリポリ書きながら、何かを思い出そうとする。
「いや、まさかな…」
老人の顔は少し険しそうな表情に変えると
先ほど同様に空中に手をかざす。
今度は赤い光が出現した。
慣れた手つきで光の中に手を入れ、
薄っぺらな本を取り出す。
本をマジマジと眺めいるが、
表情はより険しくなっていく。
ゴクッ……
あまりの迫力に征太は生唾を飲んでしまう。
「ふむむむむむむ……」
「な、何かわかったのですか?」
老人のあまりの深刻さに聞かずにはいられなかった。
「実はな、儂は神なのじゃ……
異世界神ゼニスじゃ」
「はっ?」
唐突に話始めるゼニス。
「それが僕と何か関係あるのですか?」
「まぁ、落ち着いて聞くのじゃ……
儂は異世界の神をしていてな、いわゆる
全知全能万能の異世界神なのじゃが、
そろそろ神を引退しようと思ってな…」
「はぁ……?」
「それで、他の神に誰か代わりになってくれる、
目ぼしい人がいたら、ほしいと打診してたのじゃが……」
「ま、まさか、それで僕が選ばれてしまったんですか?」
「残念なことに……そうじゃぁ」
「そ、そんなぁ」
神が神候補の選別によって、僕が選ばれて
その結果が死ぬ事だったなんて…
自分の人生を振り返り、無性に涙が込み上げてきた。
「儂が頼んだのは、中性の顔つきで、十七歳くらいの
汚れを知らないこ(娘)と頼んだのに……
よりにもよって、童貞の男とパリピな犬を送ってくるとは、あんまりだ!」
その言葉を聞いて、つい我を忘れる征太。
「それはこっちのセリフだ爺!」
「なっ!神に向かって何という恐れなき言葉」
「やかましい!さっきから聞いてれば、
完全にそっちの手違いで、死ななくていい俺が
トラックにはねられて、ここに来てしまったんだろうが!」
「いや、まぁ確かに征太君が死んだことは手違いじゃけど…」
「じゃけどなんですか?」
怒りのあまりゼニスを睨みつける。
「ゴンタ君を殺したのは、君なんじゃがな……」
ゼニスはそう言い終わると、頭をポリポリかき始める。
「へっ?!」
「まぁ、ここまで来てしまったからには、
この際だし、神の修行をしてもらおうかのぅ」
「マジ?」
「大マジじゃ……ところで、
ゴンタ君が異世界に繋がるところへ向かっているのじゃが」
振り向くと、先ほどまでなかった、光り輝くモヤが
部屋の隅でゆらゆら揺れていた。
ゴンタが興味津々にそこに向かって行ってる。
「おぃ、ゴンタ!」
主人の声を聞いて、振り返るが
すぐにモヤの方を振り向き、今度は全力で走り出す。
「こら、待て! そっちに行くな!」
ゴンタの後を追って、征太も全力で走り出す。
征太は飛びついてゴンタを捕まえるが、
全力で走り出したゴンタを止めることはできず、
二人はモヤの中へと消えて行った。
「なんの説明もせぬうちに異世界行くとは、若いのぅ……」
ゼニスは揺り椅子に腰をかけ、征太達が移動した先を
空中に写しだし、見物を始めるのであった。
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