緻密な世界観と崩壊していく世界のありさまが見事!

 読み終えて感嘆のため息が出る、オリジナリティーあふれるすごい作品でした。
 物語はどこにでもある、どこにでもいる航君の高校生活から始まります。

 幼馴染の女の子と、地味だけどハイスペックな女の子。
 航君がこのハイスペックな掌に告白し、交際が始まります。
 しかし交際が始まったものの、彼女はどうも普通の女の子とは異質な存在で……

 というところから物語は徐々に転がりだしていきます。
 作品の舞台になるのは千葉県の片隅にある異世界とも呼べる独自の社会制度を持った王国。
 それは古代中国を模したような、しかし過度に近代的な要素を併せ持った不思議な世界です。
 この設定、名称、社会制度などなどが緻密に設定されており、圧倒的なリアリティーがあります。
 これだけの世界観を作り上げる想像力がとにかく素晴らしい!

 そしてこの国で一つの事件が起こります。
 これをきっかけにこの国が変貌していくのですがこのパートがまた迫力があってすごいんです。
 渦巻く陰謀と思惑と混乱、この国に眠る謎とタブーが容赦なく明かされていきます。

 こうした緻密な物語でありながらも、物語が力強く転がっていくのはなんといってもキャラクターの造詣のなせる技。
 主人公の航、幼馴染の明日佳、謎めいたヒロインの掌。
 誰もが等身大でありながら、等身大なりの考え方、正義をもって行動していきます。
 だからこそ、この異常ともいえる混乱の中にあってもリアリティーをなくすことなく物語が語られていくのです。

 そしてこの世界の秘密が明かされるとき、もう一つの大きなテーマが立ち上ってきます。
 そのテーマに対して、それぞれがどういう決断を下していくのか?
 物語の結末に待ち受けるものはなにか?

 個人的にテーマ性が立ち上ってくるような長編が大好きでして、まさにこの作品にはそれがありました。
 物語の怒涛の展開を楽しみつつ、じっくりと考えなければならないテーマにも触れてみてください。
 とにかく圧倒されるようなすごい作品でした。

 ぜひ読んでみてください!

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