《般若》とは怒りではなく嘆きの形相である

ひとを喰らい、鬼に堕ちたひとりの女がひとり、とある神社に訪れた。
狐の神に頭をさげ、鬼女は告解する。彼女を鬼に貶めた、とある男の卑劣な裏切りを。ひとを愛するがゆえ、ひとを怨む、悲しき人間の業念を。

般若とはもともと、あらゆる煩悩を取り払った「仏様の智慧」を表す言葉です。故に般若心経といわれるわけです。
般若は恐ろしい憤怒の形相をしていますが、瞳や眉をみれば同じくらい強い嘆きのただなかにあることがわかります。そもそも心理学の観点においては「怒り」とは「悲しみ」という感情のひとつだそうです。
様々な煩悩のなかで心が張り裂けそうなほどに苦しみ抜いた般若だからこそ、その果てで「仏の智慧」を悟ることもできる――のではないでしょうか。
願わくば、悲しき鬼女に救いがありますように。

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